フォーカス 私たちの実践 病院の歯科衛生士の仕事東京・相互歯科 病棟の歯科衛生士、口腔ケアの向上に貢献
医科歯科の連携を紹介するシリーズ三回目。病棟歯科衛生士のとりくみを紹介します。東京・立川相互病院には二〇一五年一月から、相互歯科の歯科衛生士が配置されています。目的は、入院患者の誤嚥性肺炎を防止すること。第一三回看護・介護活動研究交流集会で、相互歯科の相曽訓子(あいそのりこ)さん(歯科衛生士)が報告しました。
立川相互病院は二九一床の急性期病院です。配置当初は総合診療科の病棟が中心でした。今は整形外科、産婦人科、循環器科以外の入院患者全般に関わっています。
病棟を回る歯科衛生士は二人。週五日、午前と午後で一人ずつの配置です。
口の問題全てにかかわる
新規入院患者が来たら、まずはスクリーニング。チェックすることは、全身状態、口腔機能評価(誤嚥のリスク評価)、栄養状態(BMI)、口腔内の状況、口腔ケアのリスク評価です。そこから、高い確率で誤嚥性肺炎のリスクがある患者を抽出します。スクリーニングしたうちの約三分の一がそれに該当し、歯科衛生士がケアを担当します。
スクリーニング結果は看護師に申し送り、必要に応じてケア方法も教えます。また、患者ごとに「口腔ケアポイント表」(下)を作りベッドサイドに掲示。日頃ケアする看護師が、一目で方法を確認できるようにしています。
口腔ケアの環境整備も行います。ケアマニュアル作成やケア用品の管理、「口腔ケアラウンド」や学習会の要請にも応じます。
呼吸サポートチームや栄養サポートチーム、嚥下チームにも参加し、ラウンドにも同行。各種のカンファレンスにも出て、病院全体の口腔ケアに関わっています。退院する患者には歯科往診も紹介し、フォローしています。
【症例】誤嚥性肺炎の患者。残存歯は多く噛む力が強いが、指示が理解できず口を開けたままにできませんでした。口内乾燥がひどく、歯の裏や上あごに汚れが多量に溜まり口腔ケアが必須でした。
看護師に、口を開ける補助用具でのケアやアズレン口腔保湿液や保湿ジェルを使うこと、適宜たん吸引を依頼。
それに基づき看護師がこまめにケアし、二カ月間で劇的に改善。口内が汚れた状態から歯科が介入すると、技術も時間も必要で、患者への負担も大きくなります。頻回にケアを行うことで、湿潤や衛生状態が保てました。
病院全体が変化した
病棟に歯科衛生士が配置されてから、カルテに口腔状態が記されるようになりました。口腔の気になる患者を見つけて口腔ケアラウンドが要請されることも増えました。多職種から学習会や研修の依頼が来るようになりました。
とくに大きな変化があったのが看護師。以前は口腔ケア自体を負担に感じていましたが、いまは口腔ケアにもっと時間をかけて上手にやりたいという意欲を持つようになりました。誤嚥性肺炎を防ごうという意識も強くなりました。
患者は最初、歯科衛生士が病室を訪問すると驚きますが、「全身を診てくれるのだ」と歓迎します。ケアに消極的な人でも、誤嚥性肺炎の危険性を伝えると大半が拒否しなくなります。
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いま課題にあがっているのは、手術前後の患者の口腔管理です。今年度から外科にもかかわるようになり、医師との連携もすすめているところです。
また、相曽さんは歯科のない県連・法人での口腔ケアにも言及。「歯科衛生士がいなくても、口腔ケアはできるのですが―。歯科は専門分野で、医科だけで行うには限界も。歯科がないところも、他県の民医連歯科に相談するなどで助けあうことができるかもしれません。民医連の組織力を活かして口腔ケアにとりくめれば」。
(民医連新聞 第1642号 2017年4月17日)