「総がかり」で守ろう いのちくらし 認知症の人と家族の会・代表理事 高見国生さん 後退の流れには手をつないで―私たちは揺るがない
政府は、医療や福祉予算を削減すべく、患者・利用者の負担増や給付抑制、病床削減計画など、あらゆる方向から改悪をすすめています。いのちの危機といえる流れに、多くの人と総がかりで立ち向かおう―。医療・福祉関係者に聞く新シリーズ、初回は「認知症の人と家族の会」高見国生代表に聞きました。(木下直子記者)
私たちの会は一九八〇年に「呆け老人をかかえる家族の会」として結成しました。京都駅前の百貨店で開いていた「なんでも相談」の一角の「ぼけ相談」に来た人たちを、相談役だった早川一光医師が集め、話し合いをしたのが始まりです。私も養母を介護していた相談者。当初は会がこう大きくなるとは思いませんでした。
認知症対策をめぐって
認知症対策は長いスパンで見ると、「認知症」の名も支援制度もなんにもなしの時代から右肩上がりですすみました。行政も我々の要求を聞き、努力しました。
介護保険導入後数年は良かったのですが、暗雲が漂いはじめたのは一回目の法改正(〇六年度)。「要支援」1、2を新設しましたが、それまで要介護1だった人たちを、要支援にふるい落としたのです。政府の説明は「介護予防の重視」でしたが、それなら、要介護1~5より軽い人をすくい上げるべきで、どう考えても見直しの目的は介護費用の削減です。
また、後退は認知症対策だけでなく、福祉や医療全体でした。この時期、小泉政権(〇一~〇六年)は社会保障費を毎年二二〇〇億円カットしていました。
寄り合うことで打開を
医療や福祉の後退を防ぐには、医療・福祉関係者が手をつなぎ、寄り合っていく必要がある―。私たちが最近到達した考えです。未経験の活動ですが、後退の大きな流れを打開するにはこの方向以外ありません。二〇一四年春、医療・福祉職員や障害者・年金生活者が社会保障改悪に反対し国会を包囲しましたが、呼びかけ人に当会の勝田登志子副代表が名を連ねたのも、そんな意識からでした。
会員は「認知症」の一点で集まっていますから、立場や考えは様々。ですが認知症の問題を本当に解決したいと思えば制度に目がいき、行動すれば、皆で手をつなぐ必要性も分かってくる。会全体で納得して次の運動へすすむわけです。障害や難病など苦労している当事者が声をあげ、自ら考え成熟することが、いま大切な時だと思います。
今回の介護保険制度見直し審議では、厚労省が当初出していた利用料二割化や福祉用具の保険外しなどの見直しは、事業者や利用者の抵抗もあり、最終的に法案には入りませんでした。前回の制度改定の審議では反対したのは当会から出た委員一人だったことを思うと、運動は広がっている、希望はあると思いたい。
視野を広げて
会員は元気です。活動を始めると、六〇代七〇代の役員皆がメールを使いこなすようになります。普通の主婦が街頭で、やったこともないビラ配りをします。「認知症の人の幸せを守るんや」と視点が明確なので、揺るがないのです。自分の介護体験に基づき活動していることが強みです。
介護問題の根源には、孤立や貧困があります。私たちを身近でささえる医療・福祉の職員には、世の中のことに目を向けてほしいと思っています。専門性を磨いてくれるのは、私たちにはありがたいことですが、技術だけではその人が接する患者・利用者だけしか幸せにできませんから。
お医者さんたちにはよくこう話します。「病をみて人をみないのは、あかん。人をみたら家族をみてほしい。家族をみたら社会もみてほしい」と。
(民医連新聞 第1641号 2017年4月3日)