相談室日誌 連載425 50代で倒れた 独身男性の支援は―(広島)
Aさんは要介護状態の母と二人暮らしの五〇代の男性教員でした。脳梗塞で軽度右まひと全失語が残存、当院の回復期病棟に転院しました。Aさんの入院と同時に母は特養に入所、県内に住む姉がいますが障害があり、県外に住むもう一人の姉がキーパーソンでした。ところがその姉にも支援が必要な家族が居て、退院後のAさんをささえるには制度利用が必要でした。
AさんはADLこそ改善しましたが、全失語のリハビリはすすまず、職場復帰は絶望的に。退院後を見据え、多職種でAさんに合うコミュニケーションツールを何度も検討しました。
介護保険の申請手続きにも入りました。ところがAさんが住む自治体では、退院日と退院先が決まらないと申請を受理しないローカルルールが。SWは、退院先を決めるために介護保険の認定が必要だと何度も役所と交渉。また、転院して数カ月後に身体障害者手帳も申請しました。これにも「障害固定の時期が早い」と、意見されましたが、医学的根拠を説明し、結果的にどちらの申請も受理されました。
Aさんは言葉が出ないながら「家に帰りたい」という意思を訴えます。一方、姉は「言葉が話せない弟は一人で生活できないのでは?」と心配しました。家族立ち合いで試験外泊をしてもらうと、課題が見えてきました。介護認定や、障害者手帳を取っても、全失語の人が地域に帰って使える公的サービスは不十分で、家族や地域のつながり、インフォーマルサービスに頼るほかない現実を目の当たりにしました。
一方、Aさんにあう施設も少なく、この現実とAさんの思いを受け、姉も「自宅生活を叶えたい」と変わっていきました。しかしその矢先、姉の家族が手術を受けることに。するとAさんの気持ちにも変化があり、短期間、有料老人ホームに入居することを決心しました。
家族は近くにいなくても、制度が柔軟で地域のつながりが盤石であれば、Aさんの望む自宅退院をかなえることができたのではないかと、悔しさを感じています。
(民医連新聞 第1641号 2017年4月3日)
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