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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(9) ぜん息―医療費助成制度で明らかに症状改善 東京経済大学 大気汚染公害患者の影響調査から

 健康と社会の関係について考える連載の九回目は、医療費助成制度と治療効果の関係を示すデータを。東京都は二〇〇八年から都内に住むぜん息患者に医療費の窓口負担を全額免除する助成制度を創設しました。しかし、一五年度末から縮小(新規申請を打ち切り、一八年度からは一部自己負担導入など)。「国による全国統一の助成制度を」と署名運動にとりくむ患者団体にも聞きました。(丸山聡子記者)

 〇七年に東京大気汚染裁判(一九九六年に提訴)が和解し、国、東京都、自動車メーカーと道路公団が資金を出し、東京都全域のぜん息患者の医療費窓口負担を無料にする救済制度(東京都大気汚染医療費助成制度)が実現しました。最高時で九万人(一五年)、現在も八万人が利用しています。

■3人に1人が症状改善

 助成制度がぜん息症状を改善し、継続治療を可能にした、というデータがあります。東京経済大学の尾崎寛直准教授(環境政策)は、助成制度発足翌年の〇九年に制度の影響調査を行いました(六五二人が回答)。
 制度利用後の変化を聞くと、七割超が「お金の心配をせずに通院・入院ができるようになった」、過半数が「積極的に治療しようと思えるようになった」と答えました(図1)。
 「病と向き合い、治療に前向きにとりくむ意欲が出てきたことが分かる結果」と尾崎さん。三分の一を超える人が「症状が改善した」と答えています。
 また尾崎さんは、「自分の病気が公害によるものだと認められてよかった」との回答が過半数だったことにも着目。「患者は病気を自分のせいだと考えがち。ストレスはぜん息を悪化させる。公害と認められることで苦痛が和らいだと言える」と強調します。
 助成制度ができる前、患者はぜん息の苦しみに加え、経済苦や家族、職場とのあつれき、社会からの孤立など、いわゆる「マイナス経験」を味わってきました。過去に「受診抑制」を経験した人は約三割、「薬の節約」をした患者も二割強。その結果、症状を悪化させて仕事にも影響し、「収入減少」(二〇・七%)や「失業」(七・四%=実数で四八人)にまで至った人もいました。年齢別では、一九~五九歳の稼働層で、「マイナス経験」が多い傾向です(図2)。
 尾崎さんは、「働いたり家庭を築く年齢層ほど、ぜん息という病の影響を強く受け、多くを失っている」と分析します。その結果、「人生設計が変転した」という回答は一七%になりました。

■「助成は命綱」と患者

 「一昨年、患者会と東京保険医協会で行った調査では、五割が『症状が改善した』と答えました。当会の会員でも、入退院を繰り返す人が少なくなりました。医師は『重症の患者が減った』とも。助成制度は患者の“命綱”」と言うのは、東京公害患者と家族の会事務局長の増田重美さん。
 東京大気汚染裁判の原告がめざしたのは、国、東京都とともに、原因物質を排出する自動車メーカーも拠出する助成制度を作ることと、東京全域患者を救済対象とすることでした。「将来的には国に助成制度をつくらせることも目標でした」と増田さん。
 工場の煤(ばい)煙による大気汚染が問題になったのは一九六〇年代。七三年に成立した公害健康被害補償法は原因企業などの負担により患者の医療費や生活費を補償しましたが、八八年には新規患者の認定を打ち切り。以来、東京都など一部地域を除きぜん息患者の救済制度はありません。一方で、自動車排ガスの汚染は九〇年代をピークに拡大し、子どものぜん息は増え続けています。そこで、全国公害患者の会連合会は、昨年九月から助成制度を国に求める運動を始めています。

■病因は明らかに汚染

 環境省は、大都市部の主要幹線道路周辺の小学校と道路から離れた地域の小学校の二集団を五年間追跡調査(一一年公表SORAプロジェクト)。自動車排ガスの主成分・元素状炭素、窒素酸化物の個人ばく露量とぜん息発症には、ともに関連性があると分かりました。にもかかわらず、国は幼児や成人では関連性が認められないとして、大気汚染と健康被害の因果関係を否定しています。
 尾崎さんは言います。「国は物流の担い手を鉄道から自動車に転換し、全国に高速道路を張り巡らせました。九〇年代半ばまで欧州に比べてディーゼル車の排ガス規制は遅れに遅れた。ぜん息患者を増加させたのは国策であり、自動車メーカーと関連企業です。助成制度で個人の救済にとどまらず、患者が病を悪化させず社会に貢献できれば社会にもプラスです。国の救済策の実現は欠かせない」。

※尾崎さんは『民医連医療』二〇一六年八月号でも寄稿しています

(民医連新聞 第1638号 2017年2月20日)