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民医連新聞

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「保険証の無い子」いまだに?! 保険証の「留め置き」原因 市の運用を改善させる 石川・城北病院

  「保険証がない子どもが居た」。石川・城北病院から、こんな発信がありました。子どもの貧困が社会問題になる中で、無保険の子を無くすべく国保法が改正され(二〇〇九年)、改善したはずでした。原因は、本来なら避けるべき一八歳以下の子どもの保険証の「留め置き」を金沢市が行っていたため。城北病院や「国保をよくする会」が市役所に急行。子どもたちを診察した同院の医師も「いのちの危険につながる」と抗議しました。国保担当課長が謝罪し、子どもの短期保険証は郵送を徹底するよう、運用の改善も約束しました。「他の自治体でも同様のことが起きていないか。ぜひ、アンテナを張って」。同院の川合優SWは語ります。(土屋結記者)

 当事者は、三歳と五カ月の二児をかかえた四〇代のAさん一家でした。昨年一〇月上旬、子どもたちに咳と鼻水の症状が出て、嘔吐もしたため、受診させようと、保険証を受け取りにAさんは市役所に行きました。
 Aさんは、結婚を機に転職し、非正規のトラック運転手をしていました。月二〇万円程度の収入で国保料を払うのは難しく、滞納額は六〇万円になりました。一六年一〇月、保険証更新のタイミングで、家族四人分の保険証が窓口に留め置かれ、未交付の状態になっていたのです。

保険証、受け取れず

 本来なら、その場で短期証が受け取れるはずでした。しかし、窓口は「三〇万円を払い、今後の滞納の納付を誓約しないと保険証は渡せない。法律で決まっている」と対応。Aさんは「いますぐ三〇万円は払えないが、少しずつでも納付する意思はある」と話しました。ところが、窓口職員と会話は平行線。保険証をもらえないまま帰宅しました。
 それから一〇日ほど後、生活福祉資金の貸付制度を知ったAさんが金沢市社会福祉協議会に相談すると、無料低額診療事業を行っている城北病院をすすめられました。その日の夕方に受診し、気管支炎と診断されました。
 診察した武石大輔医師(小児科)は、小さな子どもたちの保険証が留め置かれていたことに驚きました。「五カ月の子は咳や鼻水で母乳が上手く飲めない状態だった。今回は気管支炎だったが、悪化させれば肺炎になることも。危険な病気だったらどうなっていたか」と振り返りました。

なぜ渡さなかったのか

 このことを受け、城北病院や金沢市社保協(社会保障推進協議会)などが参加する「国保をよくする金沢市実行委員会」が、市の医療保険課と緊急に交渉。城北病院からは、Aさんの相談に直接のったSWの川合優さんと武石医師が出向きました。
 実行委員会は、本人が窓口に行ったのに保険証を渡さなかったことや、「三〇万円の支払い額」と「法律で決まっている」と説明をした根拠がどこにあるか、子どもの保険証を手渡さなかった対応が正しいかどうかを市に問いました。武石医師は、「今回のケースは幸いにも軽症だったが、場合によってはいのちの危険につながる可能性もある」と指摘しました。
 医療保険課は、「三〇万円」の法的根拠は無いが、「『法律で決まっている』とは言っていない」と主張。「窓口で納付相談をしている最中にAさんが怒って帰ったので、保険証を渡せなかった」と釈明しました。
 市は、一八歳未満の子に保険証が渡っていなかったことについては、全面的に謝罪しました。「郵送していた職員とそうでない職員がいた」と対応が統一されていなかった実情も率直に語り、「今後は、親の保険証の窓口交付の案内と一緒に、子どもの保険証は郵送する」と約束。窓口対応についても、「納付相談は、まず保険証を渡してから行うよう徹底する」と回答しました。

全国でもアンテナを

 「今回の事例で、保険証“留め置き”の危険性が自治体担当者に少しでも分かってもらえたと思う」と武石医師。市職員の対応にも疑問を感じました。それは、相談に来た滞納者に「これを機に、一円でも回収しよう」ということを最優先で対応していたのではないか、という点。「自治体は単なる“滞納者”と見なすのではなく、どうやったら受診できるのか、生活を立て直せるのか、という支援の視点を持ってほしい」と話しました。
 川合さんは、「体調が悪くなれば、すぐにいつでも病院に行ける環境が大切。保険料の相談は受診後でいいはず。国民健康保険は社会保障。『保険料を払っていないなら医療は受けられない』というような、保険料と医療を天秤にかける制度ではありません」と話します。金沢市以外での留め置きを危惧し、「Aさんの事例で、私たちにも留め置きが明らかになりました。ぜひ、各地でも状況を確認して」と呼びかけました。

(民医連新聞 第1637号 2017年2月6日)