臨時国会を振り返り、今月の通常国会から安倍内閣をチェック 国民運動部 山本淑子事務局次長に聞く
一月二〇日から通常国会が開会、社会保障制度の改悪案や、治安維持法の現代版ともいえる「共謀罪」の動向を注視する必要のある重要な国会です。昨秋から年末まで開かれた臨時国会も振り返りながら、安倍内閣の問題をチェック。全日本民医連・国民運動部の山本淑子次長に聞きました。(木下直子記者)
■強行続きの臨時国会
年末に閉会した臨時国会は、「暴走」と指摘されてきた安倍内閣がさらに暴走を強めることを示すものでした。国民世論と大きくかけ離れたまま、十分な審議もせずに強行された法案が、TPP承認案・関連法案、年金カット法案、カジノ法案の三つです。
TPP(環太平洋連携協定)は、国の形を根底から変える重大な内容です。医療分野にも、薬価や治療への影響や医療保険制度の解体、医療市場化などで大打撃を与えます。しかもアメリカ大統領選挙でTPP離脱を公言するトランプ氏が当選し「発効は絶望的」とされる中、関連法と承認案を強行しました。トランプ氏は二国間協議(FTA)には積極的ですから、これらが日米の交渉の下地になってしまいます。
公的年金改革法案は、簡単に言えば「支給額は賃金・物価の低い方にあわせて見直す」という内容。社会の高齢化に伴い年金が膨らむのは当然なのに、そこを抑制しようというのです。年金で暮らせない場合の頼みの綱となる生活保護も申請のハードルを上げ、扶助額も縮小しています。生存権より、社会保障費抑制の数字あわせを優先させるわけです。
カジノ法案は、公明党が自主投票、自民党にも反対議員が出るなど、与党でも一致できない代物でした。この法案を通したがっていた維新の会に恩を売り、代わりに与党をささえるよう求める、そんな駆け引きが見え隠れした強行でした。
■国民にウソをついて
「国民が問題をよく分かっていない間に採決してしまう」という手法が、どの法案でもとられました。各社の世論調査でも、賛成が反対・分からないを上回ることはありませんでした。そんな中、安倍首相が議会でウソを通す場面が目立ったのも特徴的でした。
「首相のウソはいまに始まったことではない」と言えばそうですが、例えばTPP承認案の審議で「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」と答弁し(一〇月一七日衆院特別委員会)、その翌日、農林水産相が「強行採決は議運委員長が決める」と会合で発言する、ということがありました。
また国連PKOで南スーダンに派遣される自衛隊に「駆けつけ警護」などの新任務を付与する問題でも、南スーダンが内戦状態だという事実を認めず、「『戦闘』ではなく『衝突』」「武器を使って殺傷、物を破壊する行為はあった」(一〇月一一日)など、支離滅裂な答弁を行いました。
国民も議会も軽視しています。年金の審議では、強行採決をしないよう求めた野党議員に「私が述べたことを全くご理解頂いていないようであれば、何時間やっても同じ」とまで言いました(一一月二五日)。
「民主主義の逸脱」といえるこうした事態は二〇一四年七月、閣議決定で憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を容認したころから始まっていました。
■打開のカギと通常国会
「なのに内閣の支持率がなぜ六割もあるの?」と疑問に思う人も多いと思います。政治学者の渡辺治さん(一橋大学名誉教授)はこの状況を「仕方のない支持」と表現します。「政策に賛成ではないが支持できるところが他に見つけられない」ということです。
ここに私たちの出番があります。国民の世論と安倍内閣の路線がどれだけ食い違っているか、そして、市民と共闘する野党が「受け皿」になれることを市民運動が示していく時です。
とくに始まった通常国会では社会保障改悪の具体化が審議にのぼることに。複雑な改悪で、民医連職員でも勉強が必要ですが、大きく捉えれば「日本を戦争する国にするためにより多額の軍事予算を確保し、大企業の法人税負担は抑え、代わりに社会保障予算を削ろうとした結果『患者・利用者負担増』や『給付の削減』策が出ているんだ」ということです。これを中にも外にも広げたい。
世論調査でも生活に関わる問題は関心が高く、制度見直しも慎重にすべき、という意見は多いです。「税金は人命を脅かすオスプレイでなく、社会保障にまわせ」という訴えが共感を得ないはずがありません。
選択肢があれば、有権者には選ぶ力があるということは、与党候補に打ち勝った新潟県知事選挙でも証明ずみです。解散・総選挙になれば「よし、変えるチャンスが来た」と受け止めたいと思います。
(民医連新聞 第1636号 2017年1月23日)