水俣病“国の救済の線引き誤り” 1万人の検診データが語っていること ――熊本
民医連の医師を中心とした「公害をなくする県民会議医師団」が一〇月一四日、「最高裁判決後の水俣病検診のまとめ」を発表。二〇〇四年一一月~一六年三月までの検診患者約一万人のデータをまとめたものです。メチル水銀による健康被害の地域的、時期的な広がりを明らかにし、「二〇一二年七月で打ち切った水俣病特措法で救済対象とした線引きは誤りだ」とあらためて指摘しています。編集部で報告をまとめました。
二〇〇四年一〇月一五日の水俣病関西訴訟最高裁判決以後も、県民会議医師団は水俣病検診を続けてきました。調査対象は、そのうち一六年三月までに検診を終えた一万一九六人。これを水俣病検診群とし、七つの基準(広域の居住地域、汚染地域内の居住地域、救済期限前後、感覚障害、救済対象地域居住歴、漁業関連への従事、年齢)で分類しました。
調査項目は、水俣病に特徴的な手足のしびれなどの自覚症状三七項目の有症状率と、感覚障害などの神経所見二八項目の陽性所見率。対照群および分類群相互で、症状の現れ方を比較しました。
国の救済対象は狭い
検証の結果、次のような特徴がありました。
広域の居住地域…受診者の居住地を、熊本、鹿児島、それ以外の九州、西日本、東日本で分類しました。特徴的なのは熊本、鹿児島と両県外の居住者との間に違いが見られなかったこと。汚染地域から転居した後も、健康障害は改善せず持続したことを意味します。
汚染地域内の居住地域…八代海沿岸部の六地域と沿岸部以外の二地域に分類して症状や所見を見ました。東部、中央部、南部の三地域が救済対象で、ほか五地域は対象外です(図1)。八代海沿岸の全ての地域の居住者に有症状率、陽性所見率ともに違いがないという結果で、救済対象地域の内外問わず住民はメチル水銀の影響を受けたことを示しています。
救済期限前後の比較…一二年七月三一日までの受診者とそれ以降の受診者に分けました。有症状率、陽性所見率のいずれも救済期限前後で違いは見られず、期限後に高くなっているものもありました(図2)。〇九~一二年の水俣病特措法では、汚染地域の被害者を十分救済しきれなかったことを示しています。
感覚障害…四肢末梢、全身、口周囲で触覚と痛覚の両方の障害が無かったものを「なし」、どれか一つでもあれば「あり」に分類。「なし」の群も有症状率、陽性所見率ともに対照群より高く、水俣病の特徴がありました。感覚障害がなくても、水俣病の可能性があることを示しています。
対象地域居住歴…救済対象地域に一年以上の居住歴があるかどうかで分けました。居住歴の有無にかかわらず、対照群と比べ有症状率も陽性所見率も高くなっており、居住歴の有無では差が出ませんでした。これは、特措法で行われた救済対象地域の線引きが破綻していたことを示しています。
漁業関連への従事…本人または家族の漁業関連への従事の有無で分類。有症状率も陽性所見率も対照群より高く、従事の有無でも違いはありませんでした。
年齢…救済対象から外れた「昭和四四年一二月以降出生」と、それ以外で分類。有症状率は、年齢が高くなるにつれ上昇しましたが、「昭和四四年一二月以降出生」でも、有症状率、陽性所見率ともに対照群より高くなりました。救済対象外の年齢でもメチル水銀による健康障害が認められました。
一人一人みて判断を
水俣病は国が救済対象としてきた地域を越えて広がっており、水俣病特措法での救済の線引きは間違っていたと分かりました。八代海沿岸でなくても、そこでとれた魚介類が日常的に流通していた地域では対象地域と同様の汚染を受け、水俣病を発症するだけの曝露をしたと言えます。また、曝露が終わっても、健康影響が持続、あるいは増悪しています。
昭和四四年一二月以降に生まれた人も水俣病を発症してもおかしくない曝露を受けた可能性が高く、救済策や健康状態の観察が必要です。
救済期限前後の検診データに違いがなかったことからも、特措法による救済を二〇一二年七月末で締め切ったことは政策上の誤りといえます。
過去に曝露を受けた人については、四肢末梢、全身、口周囲のどれにも触痛覚の感覚障害が無くても、その他の水俣病特有の症候がある場合は、水俣病の可能性が否定できません。近年、海外では、感覚障害を起こさない低濃度水銀で数多くの健康障害の報告がなされています。今後、個別の症状や所見によって、水俣病の有無を判断していく必要があることが示唆されました。
(民医連新聞 第1633号 2016年12月5日)
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