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民医連新聞

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「総がかり」で守ろう いのちとくらし 地域医療構想に「提言」 社会保障の危機、地域に広げ手をつなぐツールに -広島民医連

 広島民医連は、県の地域医療構想案への見解と、県内の市町の介護の新しい総合事業に関わる提言を発表しています。社会保障予算の削減を強めるために、都道府県ごとに病床削減をすすめたり、軽度の要介護者のケアを介護保険から外し市町村の事業に移すなどの国の改悪策と対決するには、運動もやはり地域レベルで―。そんな問題意識です。2つの文書は住民や地方議員、医療・介護従事者と語り合う足がかりになっています。(木下直子記者)

現状見ぬ県「構想」

 広島県が「地域医療構想」の素案を発表したのは今年二月のことでした。県内七つの二次医療圏ごとに出された「必要病床数」をみると、二〇二五年までに最大で合計六六三四床の病床削減()、削減率一八・八%に。病院を出される患者は、政府推計で約一万二〇〇人にも。
 「広島は無医地区※が五四カ所で、北海道に次ぐ全国ワースト二位の県なのです。構想案の内容はその現状も踏まえず、国のガイドライン通り機械的に作ったとしか思えず、黙っていられません。見解をまとめることになりました」と当時の県連会長・藤原秀文医師(現副会長、広島中央保健生協理事長)。「住民の願いに寄り添う地域医療をめざして~広島県地域医療構想素案についての広島民医連の見解」という文書にまとめ、募集されていたパブリックコメントとして提出しました。
 見解で問題にしたのは次の五点です。(1)地域住民置き去り、(2)地域の医療崩壊を招く恐れがある、(3)小規模病院は軽視される危険性、(4)慢性期や在宅の受け皿は、中小病院・開業医に任される構造、(5)新専門医制度との連動で、日本の医療の大転換をすべての医療機関に同じ考え方として共有させ、従わせようというものである。

図

地域の病院も懸念

 地域医療構想への懸念は民医連外からも噴出しています。構想を二次医療圏ごとに議論する「調整会議」に出席する村田裕彦副会長(広島共立病院院長)は、「中小病院から『病床削減を強制的に行うのでは?』という声が強い」と。村田副会長はこれまで区医師会の役員として在宅医療や介護との連携推進に奔走し、今年春に区医師会長に就任し、調整会議メンバーになったばかりです。
 「医師会は病床削減の強制は許さない立場。行政も『強制ではない』と説明するものの『まとまらない時の最終権限は知事にある』と言明もしています。医療機関は一つ一つがその地域で必要とされてきた存在。簡単に閉めさせたくない。軌道がおかしくなれば、会議でもしっかり発言します」。

強行するしくみ

 広島県は四月に地域医療構想を策定しました。県連の佐々木会長は策定後の問題をこう指摘します。「調整会議に対しては『構想策定に関わった責任がある』と、縛りをかけて構想に沿う病床見直しの実行役をさせ、一方の住民や患者には改正医療法に入った『国民の責務』を盾に、決まったことに従うよう強制する。各医療機関が地域の医療要求から自身の医療計画をすすめようとしても、意見を出しても、最終的に構想の目標に収れんさせる構造です」。

「外」に語って広げる

 現状をどう打開するか―。広島民医連は「事業所や住民と地域医療構想を議論し、本質を知らせる」「調整会議への住民の参加と構想に住民の意見を反映させるしくみづくり」「自治体、地方議員との意見交換や要望伝達」の三つを柱に運動を組み立てました。医療構想への「見解」に加え、九月に発表した提言「広島県二三市町『高齢者福祉計画』から見えてくるもの~国のねらう介護保険制度改悪は社会保障の縮小・後退まねき生存権奪う」(二面に詳細)が運動のツールです。
 この間、佐々木会長たちは県民集会や市民団体の集まりなどで、安倍内閣が打ち出した社会保障解体策が地域社会まで破壊しかねないことを語り「総がかりで運動しよう」と呼びかけています。問題が知られていなかったことを痛感しますが、反応の熱さに手応えも。事業所のない地域にも学習会に招かれます。地方議員と行った懇談も議会質問に結びついています。

介護保険制度見直しへ「提言」

 広島民医連では、地域医療構想への見解に続き、国の介護保険制度見直しへの「提言」(「広島県二三市町「高齢者福祉計画」から見えてくるもの)を九月に発表しました。県内全自治体の高齢化や人口動態の今後の推計などに目を通し、まとめています。「高齢者福祉計画」は、来年四月から始まる介護の新しい総合事業への各市町村の方針がうかがえる文書です。

国があおる「危機」

 県連が着目したのは、国が制度見直しを語る際に「危機的な超高齢化社会が来る」と示す高齢化率です。
 広島県内の各市町の高齢化率を調べると、二〇二五年の全国水準(三〇・三%)をすでに超えた市町が現段階で七割を占め、さらに二〇三五年推計の三三・四%を超える市町も過半数(表1)。総人口が増える見込みは、広島大学がある一市のみでした(表2)。
 「高齢化率四〇%に達した二市三町については高齢者の絶対数のピークを過ぎ、減少に転じる。三〇%を超えた市町も同じ曲線をたどる」と分析しました。
 また高齢化率の高い市町では「要介護」と認定される人の割合(認定率)も高く、介護保険費用(給付費)が増大していました。

表

高齢化した市町の課題

 これらの考察を踏まえ、「国は高齢化社会の危機的な状況をあおるが、高齢化率三〇%以上の市町は介護バランスを維持することが最重要課題。とくに高齢化率の高い市町では新総合事業への移行でこれまでの介護サービスを利用できなくなり、介護難民を生む」とまとめました。そして制度改悪を「住み慣れた町で安心して暮らせる地域包括ケアシステムづくりではなく、医療介護での社会保障の枠組みを縮小・後退させ、生存権を奪う」と指摘しています。
 中心的に提言をまとめた藤原副会長は「制度改悪への批判は、本当は検証するまでもなく出せるものです。ですがこうしたデータを示すことで、より多くの人を運動に巻き込める、『総がかりをつくれる』と考えました」と話しています。
 なお、この秋、県の「軍事費を削って、くらしと福祉・教育の充実を」国民大運動実行委員会(県労連、県社保協、民医連など)が行った自治体キャラバンで、新しい総合事業の進捗を問うと、高齢化率三〇%を超える市町の多くが「困難」と回答。提言を裏付ける結果となっています。

(民医連新聞 第1633号 2016年12月5日)