「総がかり」で守ろう いのちくらし 県の地域医療構想 宮崎・長野で討論する「つどい」
安倍内閣は、医療費抑制策の一つとして、都道府県に病床数を管理させ、削減目標を持たせる地域医療構想の策定を打ち出しています。このほど、宮崎と長野でこの問題を考える集会を開催。宮崎民医連・仁田脇弘文事務局長と長野県民医連・岩須靖宏事務局長の寄稿です。
宮崎
「病床削減ありき」でなく現場の声反映した構想に
一〇月一五日、宮崎医療生協と県民医連は宮崎市内で「宮崎の地域医療を考えるつどい~地域医療構想から考える」を開き、九二人が参加しました。
宮崎県の地域医療構想は今年七月に出ましたが、慢性期病床を削減し、在宅や施設などへ転換する内容。事業所は病床削減で事業が継続可能か、住民は入院先が無くならないかと心配しています。医療・介護関係者や地方議員、住民など幅広く集まりました。
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コーディネーターで宮崎医療生協の日高明義理事長が基調報告。「国際比較で日本の療養病床は病床当たり医師数が欧州の約三割、日米では総数の差はほぼないのになぜ削減か」などの問題意識を語りました。また「負担増・給付抑制、貧困と格差拡大の中、安心して医療や介護が受けられる基盤を医療構想で確認する必要がある」と提起。
宮崎県、医師会、病院長、在宅医、介護支援専門員の五人が登壇。まず県の医療薬務課長が地域医療構想案を説明し、「人口減で病床の稼働・利用率も減り、必要病床数も減る予測。在宅が厳しい地域も出るが、転換はすすめる」としました。
県医師会の常任理事は、「在宅医療や介護の充実なしでは地域包括ケアや医療構想にもほころびが出る」と指摘。民間の病院長は「療養病床は、急性期・回復期病棟からの在宅支援を担う。ケアサイクルの中で自然死への対応が必要」と語りました。
在宅医療を行う開業医は、医療・介護の連携を課題に挙げ、「多職種カンファレンスや研修への医師の積極的参加、提供体制の質の向上、医療依存度の高い利用者に安全に対応できる施設の拡大を」と提起。宮崎市介護支援専門員連絡協議会の会長は、介護・福祉領域から医療構想をどう見るかを語り、「医療と一体のケアが求められるが、介護職は疲弊している。離職防止策、夜間救急の整備、介護機器・IT導入の支援などが必要」と求めました。
フロアからは「診療報酬改定で二人だった医師体制を一人にして休めない。一〇年後を見据えた継続可能な医療構想に」(在宅医)。「介護度・医療依存度の高い高齢者を在宅や施設に押しやる流れの中、在宅や施設をささえる行政主導の総合策が必要」などの声が。
日高理事長は、「県は病床削減を参考値だと説明するが、それは目標値に変わる可能性も。安心して住み続けられる宮崎のために、私たちの意見を県や調整会議に寄せる」とまとめました。
長野
「重大な問題だ」「もっと、知らせよう」と、参加住民
一〇月三〇日、県医療団体連絡会(民医連、保険医協会、医労連、社保協などで構成)は「長野県の医療・介護のこれからを考える県民集会」を開き、三〇〇人が参加しました。
長野県は九月に「二〇二五年度の必要病床数を、許可病床数で二九三〇床(稼働病床数で一六八〇床)削減する」との地域医療構想素案を出しました。県地域医療構想策定委員会や地域医療構想調整会議(二次医療圏で編成)では、「上からの機械的な削減は許されない」「今の良好な地域医療を国や県が壊すのか」など批判が続出。これを受け、素案には「国のガイドラインによる参考値。県に稼働中の病床を削減する権限はない」の文言が入っています。
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集会では諏訪赤十字病院の大和眞史院長が講演。諏訪地方では一二年前から病院長連絡会の定期開催で連携を強め、地域医療を展開していると紹介し、「回復期や慢性期の病床が圧倒的に不足し、開業医の高齢化など在宅をささえる仕組みにも大きな課題がある。現場の声を反映した構想をつくるべき」と語りました。
シンポジウムでは、県民医連の熊谷嘉隆会長や訪看ST所長、地区医師会の地域包括ケア推進特命理事で、へき地診療所の開業医、療養型病棟を持つ佐久総合病院分院の副看護部長、木曽地方唯一の病院である県立病院を守れと運動する住民らが発言。
「政府は公的医療費や診療報酬を削減し、医師養成数も抑制してきた。病床機能分化と病床削減もその流れで、急性期も長期療養も守れない。しかも施設や在宅医療・介護体制は未整備だ」(熊谷氏)、「資源の乏しい中山間地では地域崩壊が起こる」(開業医)、「介護力の有無や経済格差を無視して国の計画をすすめれば、医療・介護難民はおろか、死に場所難民が増える」(訪看)と訴えました。
参加した住民は「こんな重大問題はもっと知らせ、自治体ぐるみの運動にしないと」と話していました。
(民医連新聞 第1632号 2016年11月21日)