被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから (13) 息の長い活動に
昨年九月に開催した「被ばく相談員セミナー」で、被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演の連載、最終回です。受診をすすめるタイミングと、相談活動を継続するために必要なことについて、です。
受診すすめるタイミング
原発事故被害者は、とても困難な状況に置かれています。不安感や緊張感があるのは当然です。それらは病的な反応ではありませんが、中には受診をすすめた方が良い場合もあります。それは、さまざまな反応や身体症状が出現し、本人が非常に大きな苦痛を感じている時です。また、ストレス反応が進展して「うつ状態」に陥っている場合も受診が必要です。
本人から苦痛を訴えることもありますが、「それほど酷くない」と否定する人もいます。よく注意して、周囲がきちんと反応することが必要です。また、大きな苦痛があるかどうかとは別に、日常生活や職業生活に悪影響が出ている時も受診をすすめるタイミングです。特に、アルコールを乱用している人には対応が必要です。
しかし、最初から精神科を受診する必要はありません。内科などで身体的な検査や治療をしながら、抗不安薬を少量から試してみても良いと思います。
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【事例】三〇代女性。夫は仕事のため福島県にとどまり、本人は娘さんと二人で埼玉県に避難。新しい環境になじめず、夫不在の中で先々のことを考えなければならず、不安や焦りを少しずつ強めていました。娘さんにきつい言葉で怒鳴ることもありました。ある晩、「このままでは子どもに手をあげてしまう」と、家を飛び出しました。母親の不在に気づいた娘さんが、福島から避難していた友人と探し回る事態になりました。
後日、娘さんの甲状腺エコーの際に、この相談を受けました。すでに本人は感情のコントロールが難しい状態で、子どもに対する罪悪感も非常に強いので、精神科医療が必要だと判断しました。
こういう場合は迷わず精神科の受診をすすめましょう。受診できたかフォローも必要です。電話番号を聞くなど、継続して関わる対応をしましょう。
こころの感度を高める
相談活動を始めると、いろいろと難しい問題が持ち込まれます。一つの事業所で抱え込むと長続きしません。集団で議論することが大切なので、「一緒にとりくみましょう」と呼びかけています。すぐ解決できない問題でも、本人とつながり続けることで解決できることがあります。継続して相談できるしくみづくりと、民医連内外の連携も大事にしましょう。
相談活動の本質は、「社会全体から尊重され、大切にされ、必要とされている」という感覚を、相談者に持ってもらうことです。「一人ひとりが尊重される社会」をつくる運動の高まりが、「こころのケア」にもつながるのです。
息の長い活動には、私たちの「こころの感度」を高める工夫が必要です。時間が経つと鈍ってしまい、相談を受けても大事な問題や隠れた問題を拾い上げられません。現地に行く、被災者の話を聞く、支援活動に参加するなど、感度を保つための工夫を個人でも、組織でも続けましょう。
原発事故被害者は憲法で保障された権利を侵害されています。相談活動はその権利を尊重し、生活を取り戻す活動です。ですから憲法を守り発展させる運動でもあるわけです。全職員でとりくむことが大切です。(おわり)
(民医連新聞 第1630号 2016年10月17日)