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民医連新聞

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社会と健康 その関係に目をこらす(5) 収入、小児の健康に影響 外来調査から 和歌山・生協こども診療所

  社会と疾病の関係を考えるシリーズ五回目は「貧困と子どもの健康」。民医連の小児科医たちが佛教大学と共同研究したところ、貧困が子どもの健康に及ぼす影響の大きさが明らかになりました。外来を中心に考察している和歌山の生協こども診療所・佐藤洋一所長に聞きました。(丸山聡子記者)

 民医連の事業所五四カ所に二〇一五年二月で外来受診した小中学生の子を持つ家庭七一二世帯を調査しました。世帯収入別に六つの階層(二〇〇万円未満、三〇〇万円未満、四〇〇万円未満、五〇〇万円未満、七五〇万円未満、七五〇万円以上)に分類し、子どもの健康への影響を分析しました。

収入と健康の分岐

 「分析前は、年収が上がるほど健康状態や生活実態は階段状に改善すると予想しました。ですが実際はいくつかの指標で『ここを境に健康状態が分かれる』というラインがありました」と佐藤さん。
 ひとつの分岐は、「年収二〇〇万円」。「子どもの健康状態が悪い」と感じている親は、二〇〇万円以上で四・九%なのに対し、二〇〇万円未満は一九・一%と約三・九倍(図1)、「学校の欠席が多い」は二〇〇万円以上で六五・三%、二〇〇万円未満は八二%。
 「肥満」は海外の他の調査と同様に低収入になるほど増えましたが、二〇〇万円未満の世帯では、一転して減少しました(図2)。
 「低収入になるほど安くて高カロリーのジャンクフードなどに頼りがちで肥満になると考えられますが、二〇〇万円未満では食費そのものが削られ、十分食べられていないのかもしれません」と佐藤さんは懸念します。「朝食を食べない」子は二〇〇万円未満で急増、一割を超えています。
 もうひとつの分岐は「五〇〇万円未満」。「経済的な理由による受診控えの経験がある」と「発達障害がある」は五〇〇万円未満で増えました(図3)。「健康や医療アクセスに影響が出る、という一つの指標になるかも」と佐藤さん。

図

窓口負担ゼロの効果

 日常診療でも貧困の健康影響を意識する場面があります。自営業の家庭の高校生は、小さい頃からぜん息で受診していましたが、父ががんを患った数年前から中断しがちに。受診しても薬の処方日数を少なめに要求してくることもありました。「無料低額診療事業を使ってもらい中断が防げたケースもありますが、保険薬局で無低診ができないため、薬代を払えず受診を控える患児もいる」と佐藤さん。
 そんな中、和歌山市では八月から子どもの医療費助成の対象が拡大され、小学校就学前までだった通院の窓口無料が中学校卒業までになりました。佐藤さんは「市内の小児の九割が対象で、外来患者も増えました。負担ゼロは子どもの健康に有効」と強調します。

“貧困”は見えているか

 「まだまだ“貧困”は見えていない」と佐藤さん。新型インフルエンザが流行した〇九年、住民税非課税世帯への助成を利用した患児が予想以上に多かったのです。
 「診療時間外に受診する、子どもの面倒を見ないなど、一見“困った患者”は実は貧困問題を抱えている、というのが小児科医たちの最初の気づきでした。しかし、“困った患者”だけが貧困なわけではありません。見えにくい“貧困”をどう見つけてアプローチするか、やはり大きな課題です」。
 東京・足立区が行った「子どもの健康・生活実態調査」では、生活困難な家庭でも、保護者が困った時に相談できる相手がいる世帯は、相談相手がいない世帯より子に健康問題が現れる割合が少ないと分かりました(別項)。
 「まず相談者になる。病気だけ診るのでなく、患者さんの生活や働き方に耳を傾けることは、民医連が重視してきたこと。これが私たちの役割です」と佐藤さん。
 調査では、次の点にも注目。二〇〇万円未満の世帯で「不幸だと感じる」親は三割にとどまりました。「経済的理由で受診を控えたり、食事が満足にとれていない状況にも関わらず、です。背景に、苦しいのは自分のせい、という強い自己責任論の影響を感じます。生まれた環境で、その後の健康や人生が左右されてはなりません。医療者以外とも連携し、どの時期にどんなアプローチが必要なのか、考えたい」と佐藤さん。
 調査からは、貧困世帯の特徴として「母子家庭か祖父母などと同居」「若い保護者」「未就労か非正規雇用」「低学歴の保護者」「母親の喫煙」「借家で少ない部屋数」「国保加入」などが浮上しています。外来窓口で誰でも貧困世帯に気づいてアプローチできるような指標を提示していく予定です。

 写真

(民医連新聞 第1630号 2016年10月17日)