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民医連新聞

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阪神大震災の被災者を自治体が「追い出し」 借上げ復興住宅で起きていること

 地震や台風などの大規模災害が多発するようになりました。災害では命拾いした被災者も、その後の暮らしで長きにわたり苦労を強いられる場合が少なくありません。いま兵庫では、阪神淡路大震災(一九九五年)の被災者に新たな問題が発生。兵庫県と一部の被災自治体が「借上げ復興住宅」に住む被災者の強制退去をすすめている問題です。(木下直子記者)

 阪神淡路大震災後、兵庫県や被災自治体は、住居を失った被災者向けの公営住宅の建設が追いつかず、UR(旧住宅都市整備公団)や民間住宅を借り上げ、公営住宅として被災者に供給しました。それが「借上げ復興住宅」です。
 被災者は避難所や仮設住宅から、ようやく住み続けられる場にたどり着けたと安堵していました。ところが、震災二〇年目を前に、兵庫県と神戸市、西宮市は借上げ復興住宅に入居する被災者に「二〇年の賃貸契約が終わる」ことを理由に退去を求めたのです。
 入居当時にその説明がされなかった世帯も多く、あまりに突然の通告でした。「退去が必要と知っていれば、入らなかった」と怒った人も多数。行政は当時、仮設から被災者を出すことに力を注ぎ「早く入居を」と促しました。この不手際は行政側も認めています。
 ところが今春、神戸市と西宮市は、退去に応じない世帯に対し、訴訟まで起こしました。不条理な要請と知りつつ、借上げ復興住宅の退去者は増えています。

■「退去求められた」

 神戸市に訴えられた被災者・丹戸郁江さん(72)はJR兵庫駅沿いの借上げ住宅にひとり暮らし。がんの手術直後に退去を求められました。入居契約書にも記されていない話でした。最初は「こんな体調で出ていかなあかんの?」と半信半疑。同じ境遇の人たちで作る借上げ住民協議会に参加し「一方的に被災者を追い出す話なんだ」と事態が飲みこめました。
 公営住宅に入った被災者は、自力での自宅再建の難しい層が中心。震災から二一年が経ち、年齢も重ねて、住み慣れた地域や人間関係から引き離されるリスクは非常に大きいのです。
 丹戸さん自身、震災で自宅マンションが全壊、建て直しが決まりましたが、再建費用とそれまでの住宅ローン、再建までに身を寄せる部屋の家賃、三つの支払いは無理、と現在の住宅に移る決断をしました。難病も発症し、歩行には介助が必要。近くに妹さんが住んでおり、出てゆくことは考えられません。「退去後に弱る人は多い。この住宅からも、最初の通告で退去した四世帯中、すでに三人が亡くなりました」。

■自治体が急ぐのは

 「借上げ復興住宅は『家主と自治体』と『自治体と入居者』の二つの契約でできています。二〇年の期限は、『家主と自治体』が交わしたもの。家主側は返還を強く望んでいる訳でもないことが、この間の交渉でも分かりました」。借上住宅問題弁護団の吉田維一弁護士は自治体側の主張の矛盾を指摘します。
 「自治体も最初は契約延長の方針でした。ところが行政改革の嵐の中、急転換。『自前の公営住宅に空きがある。そこに借上げの被災者を移せば借上げのカネは不要。公営住宅も埋まる』という机上の空論をすすめ、被災者の人権を抜きにした。しかも市民には借上げに対して国から補助金が出ていることは言わず、税負担を強調しています」。

■他で繰り返させない

 兵庫民医連は、保険医協会や弁護団とともに、今年一月、入居者相談会を九カ所でとりくみ、健康や暮らしについて調査しました。結果、県と神戸市が退去の免除の可否の判定要件にしている年齢での線引き(県は八〇歳以上、神戸市は八五歳以上)が不適切なことを証明しました。
 強硬な姿勢を崩さない神戸市と西宮市に対し、入居継続を求める署名も始まっています。兵庫民医連の東郷泰三事務局長はこう語ります。「大震災から二〇年後の兵庫で起きた問題が、東日本や熊本、他の被災地で繰り返されぬよう、たたかい続けます」。


県と各市の対応
要配慮世帯を除き退去…兵庫県(80歳以上、要介護3以上、重度障害者のいる世帯など)、神戸市(85歳以上、要介護3以上、重度障害者がいる世帯)
全世帯退去…西宮市
退去させない…伊丹市、宝塚市
検討中…尼崎市(2018年8月まで現状)

(民医連新聞 第1629号 2016年10月3日)