こんな改悪 許せない これが今後の社会保障“大改悪”シナリオだ
全日本民医連は九月二二~二三日、社保委員長会議を東京都内で開き、四四県連から一二八人が参加。二〇一七年の通常国会で社会保障改悪が予定されていることを知らせ、「社会保障の解体は許さない」世論を起こそうと確認しました。安倍政権は発足からの三年半で、社会保障を大幅に切り下げ。一六~一八年を「改革の集中期間」と位置づけ、医療や介護、年金や生活保護など大幅見直しを予定しています。概要を見ていきます。(丸山聡子記者)
国民生活さらに厳しく
社会保障の切り捨ては、国民生活、特に弱者ほど大きな打撃を受けます。昨年度、国内のエンゲル係数が急激に上がったことが注目を集めました。エンゲル係数は消費支出に占める食費の割合を示す指標で、高いほど生活が苦しくなります。安倍政権発足時(二〇一二年)の二三・六から、一五年には二五・〇に跳ね上がっています(二人以上の世帯=グラフ)。
医療費、交際費、教育費、被服費などが抑えられています。サラリーマン世帯で所得別下位二〇%の世帯を見ると、二〇一五年の医療費支出は一二年比で二〇%減、教育費支出は同一五%減です。特に低所得者層では生活困窮が深刻化しています。
実収入から税と社会保険料を除いた可処分所得は、一二年の月額四二万六六一〇円から一五年に四〇万八六四九円へ減りました。これは三〇年前の水準と同じです。
安倍政権がやってきたこと
小泉政権(二〇〇一~〇六年)は、高齢者の増加や医療技術の進歩などに伴って増える社会保障費の自然増分を、毎年二二〇〇億円削減しました。その結果、医療難民、介護難民があふれました。全日本民医連は〇五年から「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を開始。必要な医療にかかれず亡くなった人は、この一〇年間で通算五〇九件にのぼります。
一二年に誕生した安倍政権は、一三年度から自然増削減を再開しました。七〇~七四歳の医療費窓口負担の引き上げ、介護保険の要支援者の在宅・通所サービスの保険給付外し、介護報酬の削減、生活保護費の切り下げなどを行い、一三~一六年の四年間で削減した自然増分は一兆三二〇〇億円にものぼります。
昨年の介護保険制度の見直しでは、施設入所の低所得者への「補足給付」(食費・居住費補助)を、一定の預貯金があれば切り捨てる改悪をしました。民医連の加盟施設の調査では、「この改悪の影響で利用料が払えず、施設にいられなくなるため、預貯金の名義者である配偶者と離婚した」という人も。利用料が二割になり、特別養護老人ホームへの入所をあきらめ安価な民間施設に入所した、訪問看護やデイサービスの利用回数を減らした、などのケースも多発しています。
改悪メニューが目白押し
安倍政権が今後着手しようとしている社会保障の内容は下表の通り。今年中に結論を出して速やかに実施する、一七年の国会で法案提出を目指す、などです。
これらの見直しに対し、「(要介護1・2の生活援助を保険から外せば)重度化がすすみ、命にかかわる」(認知症の人と家族の会)、「七五歳以上の人の年金収入は高くない。一気に負担を高くするのは反対」(日本医師会、七月一四日の社会保障審議会医療保険部会で)などの反発が出ています。
豊かになったのは誰か
消費税率一〇%への増税を延期した安倍首相は、それを口実に、年金支給資格期間の短縮など公約していた改善策さえ先送りしようとしています。しかし、そもそも消費税増税は社会保障充実に使われておらず、八%化で増税した八・二兆円のうち、社会保障充実に回したのはわずか一六%(一・三五兆円)にとどまります。
一方、政権発足時に三七%だった法人実効税率は一六年度に二九・九七%まで引き下げました。大企業は内部留保を三五・八兆円も増やし、一六年一~三月期には二六五兆円超になりました。
全日本民医連が二〇一三年に発表した「人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言」では、富裕層や大企業に応分の税負担を求めれば、社会保障財源は十分あると、すでに指摘しています。
生存権を否定する大改悪
倉林明子参院議員に聞く
看護師で元民医連職員の倉林明子参院議員(共産)が厚生労働委員になりました。九月二六日から始まった臨時国会にも触れながら、医療・介護と政治について話してもらいました。
安倍首相は七月の参議院選挙の期間中、「社会保障の充実」を訴えました。ところが選挙が終わったとたん、“サービスは減らし、負担は増やす”という国民いじめの施策を次々すすめています。
二〇一七年の概算要求で厚生労働省は、通常八〇〇〇億円程度の自然増を六四〇〇億円としています。安倍政権は、自然増は三年間で一兆五〇〇〇億円、年平均で五〇〇〇億円に抑える目標ですから、さらに一四〇〇億円を削り込もうとしています。来年の通常国会を待たず、この臨時国会でも大規模な削減策が打ち出されると予想されます。介護難民、医療難民が増えるばかりか、介護殺人や介護自殺、医療にかかれず手遅れ死亡…といった悲劇が頻発しないでしょうか。まさに憲法二五条の否定、生存権の否定です。
特にひどい介護切り捨て
特に介護サービスの切り捨てはひどい。要介護1・2の軽度者の生活援助を保険から切り離し、福祉用具、住宅改修は自己負担、通所介護は地域支援事業に移行、という改悪を狙っています。介護サービスを受け、なんとか在宅で生活できていた人、重症化せずにコントロールできていた人たちの生活が成り立たなくなり、状態を悪化させるでしょう。これでは在宅生活は不可能になってしまう。
かたや施設では、低所得者への特例軽減措置廃止で、退所を考えざるを得ない人も出ています。今でも施設は足りず、減り続ける年金では入れない。この状況がさらに悪化します。介護保険スタート時の旗印だった「介護の社会化」はどこへ行ってしまったのか。
国は団塊の世代が後期高齢者となり、社会保障費が増大する二〇二五年問題ばかりを強調し、社会保障にかける国の予算を減らすことを政策の中心にしています。「改悪」にとどまらない、「社会保障の解体」です。
社会保障を世論に
昨年来、戦争法を廃止し、立憲主義を取り戻そうという市民と野党の共闘がすすんできました。そこで生まれた市民連合が野党四党に提出した要望書では、戦争法や憲法にとどまらず、雇用や社会保障の問題も盛り込まれています。ここに私は希望を感じています。命を守ってきた民医連の皆さんの出番です。
私は医療の現場から政治の世界に飛び込み、NICUを増やして周産期死亡率を下げるなど、現場の皆さんとつながって政治を変える経験をしてきました。政治を変えればもっといい看護、介護ができる、患者さん、利用者さんの役に立てると実感しました。
安倍政権は未曾有の社会保障改悪をすすめ、戦争放棄や個人の尊厳をうたった日本国憲法そのものを変えようとしています。しかし今の日本国憲法がある限り、国民の生存権を守る義務は政府にあるのです。
政府は生存権を守る役割を果たせ、その役割を果たさない安倍政権は退陣を。多くの人たちと声を上げていきたいと思います。
(民医連新聞 第1629号 2016年10月3日)