12 男の介護 千代野さんとの奮闘記 [著・冨田秀信] 5時から「戦争」
月~金曜まで、夕方5時ごろデイから帰ってくる妻を迎える日々が続く。
帰宅すればトイレをさせて、妻のリュックから汚れた衣類を出し、連絡ノートで昼間のデイの様子を窺い知る。妻に「お母さん、今日デイでこんな事あったんか?」と聞くも、本人からは、いつも「知らん」の答えだけ。
妻をテーブルに座らせ、急ぎ夕食の用意。夫婦2人だけなので、惣菜類はスーパーの出来合いで済ませる。魚中心に煮たり焼いたり、肉も少々の一汁三菜。それに私の「健康潤滑油」であるビール。妻の「いただきま~す」と、冷えたビールのひと口が同時スタート。妻のパクパクの間、私はその日ポストに届いた情報物に目をやりつつ、杯を重ねる…。
と、ここまではどこにでもある夫婦の夕食光景だが、ここから仕事の電話が入る。つまり、私が夕方5時には帰宅している事を知っている関連業者からのもの。カバンの中の書類を見ながらの電話応対が続くと、すでに妻は「ごちそうさま」状態。
電話の内容によって気分よく杯がすすむ場合と、そうでない場合がある。気分を直し、夫婦2人のテンポを戻すため、よくやるのがその日の朝刊を妻に音読させること。上手く読む。聞きながら私も食事を済ませる。ひと呼吸おき、テレビのニュースを2人で見ながら、7時過ぎには就寝の用意。翌朝8時に起こすには、12時間睡眠をとらねば体が持たない。だから夕食が7~8時ではダメなのだ。
床に就いて2時間すれば、1回目のトイレタイムで起こす。夜中~未明にもう1回と、最低2回はトイレに起こす。それをサボるとてきめん。妻がもぞもぞしつつ「お父さん、オシッコ」と言った時にはもう遅い。2階の寝室から1階のトイレまで間に合わず、階段が水浸し…は常。
20年もこの状態が続いて、私も相当に妻の体調は分かっているつもりでも失敗する。誰も責められない。
とみた・ひでのぶ…96年4月に倒れた妻・千代野さんの介護と仕事の両立を20年間続けている。神戸の国際ツーリストビューロー勤務。
(民医連新聞 第1628号 2016年9月19日)