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民医連新聞

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被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから (11) 「怒り」にどう対応するか

 昨年九月に開催した「被ばく相談員セミナー」で、被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。今回は、怒りへの対応についてです。

怒りの意味を理解する

 相談者から怒りをぶつけられることがあります。そうした場面でお勧めしたい対応は、相手と反対の行動をすることです。
 「なにを!?」と興奮して相手が立ち上がったなら、こちらは座ったままでいる。大きな声をあげたら、こちらは少し小さな声で話す。早口になった相手に対してはゆっくり話す。相手のエネルギーを吸収する行動をしましょう。
 また、相談者がなぜ怒ったのかを振り返る場合は、集団的に検討すること。自分で振り返る事は大切ですが、ひとりで考えると「自分の対応が悪かった」と思い込みがちです。集団で冷静に振り返り、相手の怒りの意味を理解することが重要です。

怒りの奥にある思い

 福島県双葉町から、子どもと一緒に避難した男性が相談に来たことがあります。本人は最善を尽くして避難しましたが、実は後になって避難先が高度の放射能汚染地域だったと分かりました。強く後悔していました。
 子どもに甲状腺エコー検査を受けさせ、「結果は、まず自分に伝えてほしい」と要望し、検診手続きや結果返しの方法をめぐって健診センターの職員とトラブルになりかけました。その方には結果返しの時に私がお話ししましたが、怒りが抑えきれず、攻撃的な状態でした。
 よく話を聞くと、怒りの根本にあったのは、子どもに対する負い目でした。「親としての責任を果たせなかった」という自責の念が、怒りとして出ていたのです。
 その思いを理解し受け止めていくことで、落ち着いて話せるようになりました。「検診を受け続けることが必
要だし、広い意味では原発を再稼働させないことも大切ですね」と、今後のことを話せるようになりました。

子どもを通して

 ほかに「怒り」の例でよくあるのは、被災地の子どもたちへのボランティアの場面です。
 ボランティアは被災地の子どもたちに楽しんでもらおう、励まそう、と支援に行きますが、受け入れる子どもたちは必ずしも歓迎するわけではありません。ちょっと攻撃的で怒りをぶつけてくることがあります。それは、避難生活などで発散できないストレスの表れです。
 普段とは違う生活で騒然とし、親もいらだっている状況を子どもたちは理解し、がまんしてストレスをため込んでいます。その中で、たまたまやって来たお兄さんお姉さんに怒りをぶつけ、たたいたり蹴ったりしてしまうのです。
 子どもの様子から、親たちが抱えている問題が見えることがあります。相談会などをしても「『相談コーナー』と書いてあると行きにくい」との声もあります。まずは受付で世間話などをしながら「お子さんは元気に遊んでいますか?」と、子どもの様子を聞いてみましょう。具体的な問題が出てきたら、「では、詳しく聞きましょうか」と相談コーナーに誘導すると良いでしょう。

*     *

 怒りをぶつけられることは、原発事故被害者にとどまらず日常診療でもあります。例えば、親を介護し見送った後で自分に治療困難な病気が見つかり、「今までの時間を返して」と怒りをぶつけてしまう。そしてそんな自分に嫌気がさし落ち込む。このような気持ちは理解できると思います。私たちがしっかり受け止めることで、また別の「怒り」も救えると思います。

(民医連新聞 第1628号 2016年9月19日)