相談室日誌 連載415 どんな国籍の人も安心して出産を(東京)
「二人目を妊娠した。今回もよろしくお願いします」。第二子の出産を控えたAさんは留学生。夫(留学生)と前回当院で出産した長女の三人世帯で、夫婦のアルバイト収入で暮らしていました。わずかな収入でしたが、Aさんは妊娠を機に退職。再度、入院助産制度を活用しての出産希望でした。この制度は「保健上入院して分娩する必要があるが、支払いが困難な妊産婦(前年所得税額八四〇〇円以下の世帯)を支援する」児童福祉法上の制度です。もちろん、夫妻は条件を満たしていました。
夫婦は日本語がたどたどしく、SWがB市へ連絡しましたが「Aさんは帝王切開で出産予定。限度額認定証と出産育児一時金を使って費用を捻出できる」との返答。市へ何度か相談しましたが、申請書さえも渡さず、弁護士を通してようやく申請にこぎつけました。
ところがB市は当初と同じ理由で不承諾通知書を送付。現在、審査請求中です。
こうした手続きの間にAさんは切迫早産で入院し、出産。都営住宅へ移り新生活を迎えましたが、入院費(四日分・約四万円)の支払いが困難で無料低額診療制度の手続き中です。
今回のような対応は初めてではありません。留学生や外国人に自治体が「市民が集めた税金で入院助産を適用することはできない」とこれまでも何度か返答しています。今回も「外国人で留学生だから?」と疑問を感じました。また日本人の場合も様々な理由をつけられ、申請できない事例もあります。
妊産婦を取り巻く環境は残念ながら不安な要素が多く、入院助産制度や無料低額診療制度を利用しているだけでは解決に至りません。頼れる身内がいない中、想定外の入院や出産時の上の子どもの預け先なども限られており、公的なサポート体制が十分でないと実感します。Aさんも経済的不安を抱えたままの出産でした。
国籍や在留資格に関係なく、または日本人であっても経済的に困難な場合に活用できる制度が必要です。それらの課題をていねいに拾いあげる事が、安心した出産・子育へとつながっていくのではないのでしょうか。
(民医連新聞 第1628号 2016年9月19日)