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民医連新聞

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10 男の介護 千代野さんと奮闘記 [著・富田秀信] 晴れて堂々と

 何も姑息な事をしていた訳ではない。妻と我が家をサポートする施策がないまま、人の善意や「特例」や「融通」の中、退院後の2年7カ月を過ごしてきた。人様の力で生かされてきた貴重な月日だった。逆に言うと、人様の支援がなければ崩壊していたかもしれない我が家だった。
 そういう点で、待ちに待った2000年4月からの介護保険申請である。40歳~64歳までの第二号被保険者となりうるか? 15の特定疾患に認定されるか? ケースワーカーや医師と何度も準備を重ねた。特に規定では「初老期における痴呆」「脳血管疾患」とあるが、妻の病名の「無酸素脳症」はそれに適用されるのか? 医師は「千代野さんは広い意味の脳梗塞です。大丈夫」と私を安心させてくれたが、果たして「要介護5、精神障害1級手帳取得」と認定された。その瞬間、タイトル通りの気分に浸ったのだ。医師に感謝。
 それまで特例で利用していた通所施設の担当者は、「これまで『上』に適当なことを言って、千代野さんのお世話をしていましたが、もうこれで安心です」と。こういう多くの方々に、不安と面倒をかけてきた日々だったと思うと、これからの介護生活をおろそかにはできない。
 「手帳」は効果てきめんだった。京都市内の市バス、市営地下鉄は無料、タクシー1割引という風に。しかし、それでも私鉄や、JR在来線、新幹線の割引はない。身体障害者には割引があるのに、同じく介助が必要な精神障害者には障害種別で差別があることも知った。JR職員に何回か問うても、「規則ですから」と、私を納得させる回答は全くない。
 介護保険認定、精神障害者1級という権利取得に対し、社会の様々な規則との攻防が始まろうとする「介護保険元年」だった。


とみた・ひでのぶ…96年4月に倒れた妻・千代野さんの介護と仕事の両立を20年間続けている。神戸の国際ツーリストビューロー勤務

(民医連新聞 第1626号 2016年8月15日)