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民医連新聞

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被爆相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから(9) 相談が被害者を傷つける?

  昨年九月に開催した「被ばく相談員セミナー」で、被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。今回は、「被害者に寄り添うとは」です。

 私たちは「寄り添う」ことを大切に被害者と関わっています。しかし、その相談が被害者をかえって傷つけてしまうことがあります。本人が苦悩し決断したことが尊重されなかった場合です。

価値観を尊重すること

 原発事故の被害者は、情報不足の中で迷いながらすすむ方向を決めています。その一方で、生活再建のあり方や放射線の健康被害をめぐり、その決断に対し第三者からいろいろな意見があります。善意からのものもありますが、被害者が「傷つけられた」と感じてしまうことがあるのです。
 人がそれぞれ持っている多様な価値観は尊重されるべきです。しかし、被害者は自らの価値観を貫くことが難しい状況に置かれているわけです。「寄り添う」とは、その困難を少しでも取り除けるよう、一緒に行動することだと思います。
 例えば、避難するかどうかの場面でも、自由に選択できる状態ではなかったのが実際です。被害者が場面場面で行った決断は、大きな混乱と困難の中で、そうせざるを得なかった結果だと私たちは考えるべきなのです。善意だったとしても、「避難しなかったこと」や「避難したこと」を責められたと受け取られないような配慮が必要です。

相談者とのズレが―

 適切な援助ができなかった事例を紹介します。
【事例】原発事故前は三世代六人で生活していました。事故後、母と子は福島県外に避難しましたが、父親は単身で残りました。祖父母も県外に避難しましたが、孫たちとは別でした。家族が三カ所に分断されてしまいました。
 問題の発端は、子の中学進学でした。避難先で進学するか、地元には戻れないが福島県内での進学かで悩んでいました。父親は明確な意見が出せませんでした。子どもは避難先の中学が良いと言っていました。母親は、元のように三世代で暮らすことを望んでおり、子どもと意見が違いました。
 ある支援団体がこの相談に乗りました。支援者は一生懸命に話を聞いた上で、子どもの健康を守りたい、という思いが強かったのでしょう、「避難先での生活を続けた方が良いのでは」と意見を述べたようでした。相談者は「福島に戻るという判断は、親としての責任を果たしていない」と言われたように受け止めてしまいました。
 私が母親に話を聞くと、「家族があっての自分であり、家族があっての子どもだ」という考え方を大切にしていました。このあたりで、支援団体と相談者の間にズレがあったようでした。

 まず最初に、相談に来た被害者が何を大切にしているか、どのような価値観を持っているのか、しっかり聞くことが大切です。その価値観が尊重される方向で援助をすることが基本になります。価値観をしっかりと把握した上で、支援する側の意見や考えを伝えることが必要な事例でした。
 私たちは「寄り添う」側です。知らず知らずのうちに自分の価値観や人生観を押しつけていないか、相談活動をしながら振り返ることも大切です。

(民医連新聞 第1625号 2016年8月1日)

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