外国人学校の子どもたちの健康を地域でささえる 長野上伊那生協病院
長野・上伊那生協病院では、外国人学校の子どもたちの健康や発達の支援にとりくんでいます。また、その輪は地域や自治体まで、広がっています。日本にいる外国人労働者の子どもたちの状況は?取材しました。
(田口大喜記者)
工場跡の「学校」で
日本に暮らす外国人は約二一〇万人、長野県には三万人が住んでいます。上伊那生協病院の診療圏には工場が多く、仕事を求めてやってきた外国人労働者が多くいます。その子どもの大半は日本の学校に通っていますが、「母国の文化を大事にしたい」と私的な外国人学校に通う子もいます。
長野県・箕輪町にある「長野日伯(にっぱく)学園」もその一つ。二歳~高校生までのブラジル人児童三〇人が通います。学校といっても校舎はもと工場、運動場や体育館、校庭さえ無く、「学校」とはほど遠い環境です。
校内には、数字を習っている幼児から、ブラジルとインターネットをつなぎ授業を受ける高校生まで、いっしょに過ごしていました。二階の教室は暑すぎて誰もおらず、一階も扇風機のみでエアコンはついていませんでした。
校長は日系ブラジル人のリマ・ベルナデテさんです。親たちが毎月出す三万円で運営する学園に学校健診はありません。その上、リマ先生には気になることが。「共働きの家庭が多く、親も若いため、食生活が乱れていたんです」。給食はなく、昼食は家から持ってくるお弁当。ところが、親が料理できず、白米にふりかけだけだったり、インスタントラーメン、という子が多かったそう。「そういう子は風邪をひきやすく、貧血で倒れる子もいた」。
そこで先生は、リーマン・ショック後(〇八年)で仕事を切られ、困窮する外国人労働者などを支援する「SOSネットワーク」で知り合った上伊那生協病院に「公立学校と同じような健診ができないか?」と相談したのです。
協力して分かったこと
病院は学園から車で五分の場所にありました。「ちょうど病院もヘルスプロモーションを強化しよう、と打ち出した時。手探りでも、子どもたちのためにとにかくやろうと、リマ先生の相談を受け止めた」と根本賢一事務長が振り返ります。健診実施の決断まで時間はかかりませんでした。
最初の健診は二〇一三年二月。暖房を控えて冷えこむ校舎で、看護師たちは白衣にコートを羽織って採血しました。子どもたちを診た小児科の中村由実医師は衝撃を受けました。「お弁当には野菜がほとんど入っていません。さらに、運動場が無いため運動不足で、肥満の子どもが目立った」。
子どもたちの背景に着目した病院は、健診して結果を返すだけでは解決しない…と、保護者も含めた健康指導にのり出しました。
広がる協力者
栄養バランスのよいお弁当の講習や、栄養指導を栄養士が保護者に行いました。さらに、生協組合員さんが子どもたちに畑を解放。作ったのはトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ…。
運動は、「毎日楽しくできる」を目標に、Jポップに合わせたダンスを作業療法士が考案。スポーツ大会も行いました。
また、民医連外の歯科医師が歯科健診をひきうけてくれました。最近では「日本の子どもより歯みがきが上手」とほめられます。「清涼飲料水を飲む親に、子どもが砂糖の量が多いんだと注意するなど変化があります」と、リマ先生。「感謝しています」。
さらに、地域住民だけでなく地元の看護大学からも支援が。
文化の違う外国人学校の生徒と接する際の留意点を、根本事務長はSOSネットワークで一緒だった、長野県看護国際大学の宮越幸代准教授に相談。「異文化を理解する」、「文化を押しつけない」などのアドバイスを受けました。
また、同大の看護学生たちも学園に出向き、性教育やたばこやアルコールの害を児童たちに教えました。「学生には学習の機会です。私たちが学園から教わることがたくさん」と宮越さん。今では、看護学生が学園の祭りの企画などに積極的に関わっています。
県が健診費用を出す!
こうしたとりくみの費用は、当初は病院の持ち出しでした。「HPHの活動を強めようという時で、スムーズに実行に移せた」と根本事務長。しかし、継続にはやはり安定的な資金が必要でした。
長野県との懇談で、このことを要望すると「地域住民によるささえ合いのとりくみ。本来は行政の仕事」と県国際課から回答が。まず動き、行政が応援しやすいスタイルを作ったことが功を奏し、長野県国際化協会の「母国語教室健診事業」として健診費用全額が出ることに。
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「日本人も外国人も誰でも健康に生きる権利があります。『助けてあげる』ではなく、私たちが学ばせてもらうつもりでいます」と中村医師。地域と外国人の労働者の子どもたちをつなげることが今後の課題、と語りました。
(民医連新聞 第1625号 2016年8月1日)