被ばく相談窓口をつくろう民医連のセミナーから(8) ストレスの回復過程
昨年九月に開催した「被ばく相談員セミナー」で、被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。今回は、「ストレスの回復」についてです。
被害者の抱えるストレスには段階があり、「災害直後」「混乱した時期」「長期の慢性的ストレス」と三つに分かれます。慢性的な状態になるとストレス反応が身体的症状に現れやすくなり、それが続くと、最後にはうつ状態になります。前回はこの流れを説明しました。今回はストレスの回復する過程を説明します。
こころの負担を軽くする
まずは、不安感や緊張の軽減から始まります。一番は抱えている問題が解決することですが、原発事故の被害者が抱える問題は複雑で、簡単には解決しません。相談活動や支援活動など、いろいろな働きかけで不安や緊張を和らげることが重要です。
次に、不安感や緊張が弱まれば、疲労や身体症状は改善していきます。そして最後に、意欲や集中力が回復します。
前回紹介したストレス反応の進行と、今回の回復の順序を理解しておくと、相談者が置かれている状態や相談の中身が理解しやすくなります。
避難生活のストレス
私の外来に通う男性の事例を紹介します。
【事例】夫婦と子ども二人で、福島県から埼玉県に避難してきました。避難生活で失職。当分は生活が保障されていましたが、帰還できる可能性は乏しく、いつ保障が打ち切られるか分からない状態でした。避難先では、なかなか周囲になじむことができず、不安な日々を送っていました。福島の親族との関係もこじれ、いくつものストレスを抱えていました。
避難してしばらくの間は気が張っていて、特に不調は感じていませんでした。「自分が家族をささえなくては」という思いで必死だったのでしょう。
それから一年ほど経過すると、胸部の不快感、息苦しさ、手足のしびれを感じるようになりました。運動不足のせいと考え、軽い運動を始めましたが、徐々におっくうに感じるようになり、外出もしなくなりました。そのうち、妻や子どもと話すことすら面倒になり、昼夜逆転生活になってしまいました。私の外来に初めて来た時は、このような状態でした。
生活上の具体的な相談をしながら、少しでもリラックスするために抗不安薬を少量処方しました。また、「午前中にはちょっとした活動をしましょう」と外での活動予定を組むように助言しました。少しずつですが生活のリズムを取り戻しているところです。
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県外に避難した人はもちろん、福島県にとどまっている人でも、こういったストレス反応が起きやすくなっています。本質的な解決はなかなかできませんが、安心して話せる場を継続して提供し、生活の困難さや苦しみに共感しながら関わっていくことも、回復に向けた大切な支援活動です。
次回は、相談活動で被害者を傷つけてしまう事例を紹介します。
(民医連新聞 第1624号 2016年7月18日)