被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから(7) 被害者の抱えるストレス
昨年開催した「被ばく相談員セミナー」で被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載。今回は、「被害者の抱えるストレス」についてです。
今、原発事故の被害者が抱えるストレスで一番大きいのは、自己決定を迫られていることだと思います。「自分の人生を自身で決める」、これは非常に大切なことです。しかしその決断は、適切な情報がきちんと提供され、かついろいろな支援がある中で行われなければなりません。情報も支援も不十分なまま、「この先どうするのか決めるように」と迫られては、大きなストレスになります。
子どもたちの未来に対する苦悩と不安も続いています。学校、教育の問題で、地元に帰るべきか悩んでいます。また、健康影響はどうか、それが将来不利益になることはないかなど、多くの不安を抱えています。
ストレスや不安を長く抱えていると様々な問題が起きてきます。
ストレスの3段階
ストレス反応を理解するために三段階に分けてみましょう。
まずは、「災害直後の大きなストレス」です。東日本大震災では、津波に根こそぎ地域が破壊され、多くのいのちが奪われました。大きなストレスを受けて茫然自失になり、自分で考え行動することはできません。
その時期を過ぎると、「混乱した時期の中等度のストレス」に移ります。目の前の問題を解決しようとがんばって活動するようになります。「私がやらなければ」という使命感で高揚もしていますが、疲労が自覚できない状態です。
さらに段階を過ぎると「長期にわたる慢性的なストレス」になります。身体症状が出やすくなり、すぐ疲れる、眠りが浅い、酒量が増える、イライラしやすいなどの症状が出てきます。たいへんな仕事が続く時に、皆さんも感じるようなストレスです。しかし検査では異常が出ないこともあり、「病気はなさそうです」と流されてしまうことがあります。
精神的な症状は要注意
こうした状況がさらに続くと、徐々に気分が落ち込み、うつのようになってくる人もいます。原発事故の被害者は、五年以上ストレスを抱えた状態が続いています。身体に反応があったり、気分が沈んできている人がかなりいます。
まずは、ストレスには三つの段階があることを理解しておきましょう。そして、慢性の緊張状態・疲労が徐々に身体的な症状として現れ、最後はうつ状態になる流れを覚えておいて下さい。外来でこの流れを説明すると、患者さんの理解がすすみます。
相談に来た人を見た時、「体に症状が出ているな」と感じたら、本当にその症状だけか聞いてみましょう。気分が沈んでいて、日常生活に支障をきたしているようなうつ状態であれば、医療につなげることも検討しましょう。
(民医連新聞 第1623号 2016年7月4日)