大注目の参院選 読者3500人に聞いてみた! あなたはどんな願いを託す?!
参議院議員選挙が目前です(六月二二日公示、七月一〇日投開票)。一八歳選挙権もスタート。民医連職員はこの選挙をどう考えているのか? 民医連新聞では、「国政選挙目前! 緊急アンケート」を実施。編集部史上初の三五〇〇人超の回答が集まりました。設問は「投票に行く?行かない?」「気になる問題」など。結果をもとに今号から二回連続でとりあげます。今号は関心事ランキングと上位四位に入った問題を考えます。(土屋結・丸山聡子記者)
アンケートは五月中旬から半月間、民医連職員や看護学生を対象に実施。六月一三日現在、三五五六人が回答しました。
「気になっている問題」(複数回答)の一位は「医療・介護の充実」で、次いで「子育て支援、教育政策」、三位は「税の使い方、集め方」、四位が「平和外交政策」でした(下図)。
「安倍政権に通信簿をつける」項目も。「戦争法」「改憲の動き」「医療・介護・福祉」「原発、エネルギー政策」「米軍基地問題」は、5段階評価で平均2にも届かない厳しいもの。2を上回った「被災地復興・災害対策」「雇用・働き方の政策」「経済政策(アベノミクス)」「TPP」も最高で2・36止まりでした。
1位 医療・介護の充実
最も多く関心を集めたのが「医療・介護の充実」でした。この項目に○をつけた山口県のミホさん(仮名・三〇代、事務)は、「『ベッド数が減って入院しづらくなるんでしょ』と、地域の人たちは不安そう。安心して医療を受けられるようにしたい」と話します。
いま医療現場はどうなっているか―。自公政権が一四年六月に強行した「医療・介護総合法」では「地域医療構想」を策定。政府が出した全国の必要病床数推計では、現在より一五~一九万床減らすことになり、特に富山、島根、高知など九県は削減率が三割超という事態です。逆に「四万床以上の増床が必要」との試算(京都医労連)も出ています。
また、一五年六月に策定した「経済・財政再生計画」により、介護保険料の値上げ、高齢者施設の居住費の大幅負担増、診療報酬と介護報酬の引き下げなど改悪が連打されています。これにとどまらず、参院選後に表のような改悪も準備しています。
安倍政権の狙いは、社会保障制度を解体し、市場化、営利産業化すること。社会保障への国の責任を放棄し、国にとって安上がりな「国民相互の助け合い」へと変えようというのです。
医療・介護分野は、今度の選挙で「さらなる改悪」か、「充実への転換」か、がかかっています。与党を少数に追い込み、憲法二五条にもとづく医療・介護制度を実現したいものです。
2位 子育て・支援教育政策
二番目に関心が高かったのは「子育て支援・教育政策」です。
〈保育〉「保育園落ちた―」というブログの投稿で話題になった待機児童の問題。根本にあるのは、「認可保育所の不足」と「保育士の劣悪な労働条件」です。
公立保育所は〇四年から一〇年間で二五〇〇カ所も減り、認可保育園に入れなかった子どもは全国で八万三三七五人(厚労省、一五年四月)。ただ受け皿さえ増やせばいいのではなく、質の維持・改善も子どもたちの安全や発達保障には欠かせません。安倍政権は待機児童の問題を、保育基準を緩和し“詰め込み”で解消しようとしています。必要なのは、保育士の待遇を改善して受け皿を確保することや、保育の質の確保です。
〈教育〉日本の高等教育の学費は先進国の中でも高く、しかも奨学金などの経済支援制度は不足しています。親世代の貧困が広がる中で、学費は重すぎる負担です。
奨学金を利用する大学生は現在五割を超え、卒業後も非正規などの不安定雇用にしかつけず、奨学金の返済に苦しむ事例があいついでいます。在学中もアルバイト収入がなければ学生生活維持は困難。「ブラックバイト」も横行し、学業に支障が出る事態です。
日本の教育への財政支出割合は、OECD平均の半分以下(図)。これを平均にするだけで、学費値下げや給付型奨学金の導入が可能。しかし、安倍政権は給付型奨学金の創設さえ見送りました。
3位 税の使い方、集め方
安倍政権は、「アベノミクス」と名付けた経済政策を三年半にわたり推進してきました。一四年四月には消費税を八%に増税し、日本経済の六割を占める個人消費は二年連続で落ち込み、八兆円も下落しました。実質賃金は五年連続で減り続けています。
一方で法人税率は引き下げ、大企業には四兆円も減税しました。大企業の内部留保は増え続け(図)、日本人の富裕層上位四〇人の保有資産は一二年の七・二兆円から一六年の一五・四兆円へ二倍以上に急増(米誌『フォーブス』まとめ)。「アベノミクス」で格差は拡大しました。
社会保障については、一三年からの三年間で総額一兆一五〇〇億円も削減。OECD加盟三四カ国のうち、日本は社会保障の国民一人あたり公的支出は一七位と低水準です。一方で軍事費は四年連続で増やされ、五兆円を突破しました。
「税金のあり方、このままではいけない」。そんな思いが集まり、この項目は三位でした。若い世代ほど、関心が高いのも特徴です。
4位 平和・外交政策
四位は「平和・外交政策」です。「二〇代の頃、自衛隊に二年間いました。有事の際は命を差し出すという内容の書面に署名。昨年の安保法制に続き、憲法まで変えたら、戦前のように国民みんなが国に命を差し出さねばならなくなる。今度の選挙ではそれを止めたい」。そう話す長崎・五島ふれあい診療所の三田博樹さん(ヘルパー)もこれに○をつけました。
安倍政権は発足以来、秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、戦争法(安保法制)と、日本の進路を大きく変え「戦争できる国」へ準備をすすめています。自民党は公約に憲法改正を掲げ、九条を変えて国防軍創設まで狙っています。
三月には戦争法が施行。内戦が深刻化する南スーダンへの自衛隊派遣も計画されています。日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表は、「紛争地は政府と反政府勢力が対立し混沌としているのが現実。自衛隊がどちらかに銃を向ければ、その時点から敵として扱われ、無関係の日本人やNGOも攻撃の対象になる」と語っています(『いつでも元気』16年1月号)。戦後七一年、戦争をしなかった日本が海外で「殺し、殺される」国になる危険が高まっています。これまで非暴力で行ってきた医療活動も困難になります。
また、県民の反対を押し切り、与党がすすめようとしている沖縄の米軍新基地建設問題は、アメリカとともに戦争する国づくりと、深く関わっています。
戦争法廃止を求める署名は一二〇〇万筆を超え、広がっています。参議院選挙は、平和と憲法を守れるか否か、が問われます。
編集長プチ解説 「どちらを選ぶ?」
今回の選挙、これまでと違う大きな特徴がある。それは「日本の今後」を土台から問うものになるということ。もちろん選挙は1回1回が大事。だが、自民党は選挙の結果次第で憲法を改正する気満々なのだ。自民党は「改憲草案」を4年前に完成しているし、「改憲の話は参院選挙後にしてほしい」と本音を言っちゃった党幹部がいるのも証拠だ。
もうひとつは、私たちに示された選択肢。野党(民進・共産・社民・生活)の選挙協力体制が戦後初めて完成した。単に「与党じゃない」以上の価値を持つ。共闘は昨年から戦争法廃止で運動してきた市民の叱咤激励で実現したものだから、野党は市民が出した政策を守ると約束もした。これまで選挙権があっても選べず、棄権した人もいたと思う。だが今回は「いまの政治でいいかどうか」と「与党か野党か」が直結してるじゃないか。さあ、考えよう。
現場発の事例から選挙を考える
北海道・勤医協在宅グループ
北海道・勤医協在宅グループは五月中旬から投票日前日の七月九日まで毎日(日曜除く)、朝の打ち合わせの連絡報ニュースに「事例から考える参議院選挙」を掲載しています。グループ内の事業所が持ち回りで担当します。
「九〇歳代の男性は妻と次男の三人暮らし。次男はリストラにあい、アルバイト。男性の年金・月二七万円で暮らす。自己負担が二割となり、訪問看護、デイサービス、入浴を週二回から一回に」「介護報酬引き下げでデイサービス事業所が閉鎖。『もうサービスはいい…』と話す利用者さんも」「七五歳、男性、独居。透析治療中。利用料が二割になり、訪問介護を週三回から二回に。室内が乱れ、独居への不安も」など実態を告発しています。最後にはこんな言葉が。「安心して必要なサービスを受けられるよう、この声を国政に反映してくれる候補者に投票しよう」
戦争体験者の声や投票の方法を紹介する人も。グループ代表の太田眞智子さんは、「困難を抱えた人たちが地域で自分らしく暮らすために、充実した社会保障が必要です。選挙に行こうと呼びかけています」と話していました。
(民医連新聞 第1622号 2016年6月20日)