05 男の介護 千代野さんと奮闘記 [ 著・富田秀信 ] 患者さま
「患者さま」と、呼ばれるのは好きではない。「患者さん」で十分だ。
妻は倒れた96年4月19日からの1年4カ月の間に4つの病院を転院した。倒れた原因が脳か心臓かの究明のためだ。リハビリは高次脳機能障害向けのリハビリで、「身体」と「言語」などの様々なバリエーションのものを必要としていた。
転院のたびに、「ここで大丈夫か」という不安があったが、その評価は3人の子どもたちの直感が正確だった、と今でも思える。患者家族の1番の安心は、情報がきっちり伝わっているかどうかだ。病状やこまごました事由や要望が、妻を担当する看護師全員の共通認識になっているか? 「○○と、伝えていたのに…」と言う必要があるかないかだ。
「どうもこの病院の看護師は…。事務は…」と転院のたびに子どもが直感する。結果、伝言が伝わっていない事多し。メイク強めの師長は妻の容態不調を家族のせいにした。要望していないのに個室に入れられ、いきなりの請求書が渡されるなど、事例に事欠かない。1番のくせものは「できるだけの事はします」。この言葉の裏には「ここまでしかできません」という予防線が張られていたということは、結果で分かることもあった。
一方、入院前にわざわざ自宅へやって来て、個室差額を取らない理由をていねいに説明する病院もあった。患者家族は弱い立場。24時間看護してもらっている身。それ以上の要望はとても出せない。つまり病院と患者家族は対等でないのが現実だ。
だから、なおさら「患者さま」とは呼んでほしくない。
とみた・ひでのぶ…96年4月に倒れた妻・千代野さんの介護と仕事の両立を20年間続けている。神戸の国際ツーリストビューロー勤務。
(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)
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