ドキュメンタリー映画 「ザ・思いやり」 “思いやり予算”を問うアメリカ人 リラン・バクレー監督に聞く
思いやり予算を知っていますか? 思いやり予算とは、日本政府が日本にいるアメリカ軍の駐留経費を負担していることです。法的な義務もなく、これまで六兆円が私たちの税金から支払われてきました。アメリカ軍が駐留している他の国でもそんな負担はしていません。
この思いやり予算に疑問を持ったアメリカ人がドキュメンタリー映画をつくりました。タイトルも『ザ・思いやり』。監督のリラン・バクレーさんに聞きました。(田口大喜記者)
テキサス州出身のバクレーさんは、二〇年以上、英語講師として日本で暮らしています。高校時代に日本にホームステイした際、日本の風土と人々の親切さに感激したことが日本との結びつきのきっかけ。
神奈川・厚木基地近くに住み、上空を飛ぶ戦闘機のごう音も聞いていましたが、「なぜ日本に米軍基地があるのか?」と疑問を持つようになったのは、イラク戦争のある映像がきっかけでした。アメリカ軍がバグダッドで子どもを含む民間人を殺りくする様子を、インターネット動画サイトで見たのです。
思いやり予算は何に?
「思いやり予算」の存在は、沖縄の新基地建設反対の座り込みに訪れて知りました。「思いやり予算を被災地支援に回して!」と訴える人がいたのです。
「思いやり予算とは何で、何に使われているのか?」。疑問を持ったバクレーさんは調べました。思いやり予算を含んだ在日米軍をささえる費用は、年間約九〇〇〇億円です。その用途は、原子力空母の停泊場、沖縄・辺野古の新航空基地などの建設費。さらに、米軍基地内の住宅、学校、プール、ゴルフ場の費用にあてていました。アメリカ兵は水光熱や有料道路を使い放題です。さらに信じられないことに、アメリカ兵が日本で起こした事件や事故の被害者への賠償金にまで使われていることが分かりました。
「何だこの事実は?! 日本人は知っているのだろうか!!?」。劇中でのバクレーさんも驚いた表情を見せています。
興味がなかった人にこそ
そこで、趣味でもあった八ミリ映画づくりの腕を活かしてこの作品をつくることになりました。「立ち入れない場所でも、カメラ一台行けば誰もがそこに行ける」。バクレーさん自身がアメリカの街頭に立ち、行き交う各国の人々に、「日本政府が駐留する米軍に大金を払ってあげることについてどう思う?」と、問いかけるシーンは見どころのひとつです。
「日本国民の税金が、アメリカの軍事活動に使われている」というシリアスな内容が、コミカルに描かれていることもポイントです。「情報だけでなく、楽しめるようつくっています。この映画はいままで運動や基地問題に興味がなかった六割の人たちにこそ観てもらいたい」とバクレーさん。観客を飽きさせないための工夫が、随所にちりばめられています。
米軍は必ず帰る
「日本の良いところは国民皆保険と憲法九条」と語るバクレーさんは、神奈川・横須賀の軍港前で住民が行っている抗議行動にも参加しています。英語が話せるので米軍に向けたスピーチも頼まれます。「日本をベースに貧しい国の人たちのいのちを奪うのではなく、アメリカに戻ってより良い医療制度や教育のためにがんばってもらえないでしょうか?」と呼びかけるとともに、TPP、マイナンバー制度の危険性なども訴えています。
「時間のかかる問題でしょうが、米軍は必ず帰る時が来ます。良い方向に向かっていることを忘れてはいけません。楽しく、持続可能な運動でがんばりましょう」。平和のためにたたかう人々へのエールを語りました。
思いやり予算…防衛省予算に計上されている「在日米軍駐留経費負担」の通称。一九七八年、日米地位協定の枠を超える法的根拠のない負担に対して、円高ドル安などによるアメリカの負担増を考慮した当時の金丸信防衛庁長官が、「思いやりの立場で対処すべき」と答弁したことから、「思いやり予算」と呼ばれるようになった。
映画『ザ・思いやり』は、第二、三弾も鋭意制作中! あなたの町でも上映会を開き「思いやり予算」を学習してください!
問い合わせ先…「ザ・思いやり」事務局
電話:090-4135-2563(平沢)
Eメール:zaomoiyari@hotmail.co.jp
(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)