緊急連載 特養あずみの里裁判(2) 介護の未来かけ たたかう 木嶋日出夫弁護団長 ずさんな警察・検察の捜査・起訴のねらいは?
長野・特別養護老人ホームあずみの里での二〇一三年一二月のできごとが、刑事事件として訴追されています。木嶋日出夫弁護団長の寄稿。今回は、「捜査・起訴の経過とそのねらい」です。
長野県警本部と安曇野警察署による捜査と検察による起訴は、異常に早く、またずさん極まりないものでした。
二〇一四年一月七日、施設長に対する警察の取り調べが始まり、続いて施設から膨大な関係記録が押収されました。二月一日には施設とご遺族との間で示談が成立していましたが、警察は捜査をすすめ、五月二二日、准看護師を業務上過失致死容疑で検察庁に送検しました。検察は、起訴直前に准看護師に対して二回の取り調べをしただけでした。
■きちんと捜査がされず
警察は、女性の異変があったおやつ時の状況について、まともに現場再現をしていません。食堂にはどのような配置で何人の入所者がいたのか、それぞれの入所者の食事要介助の状況はどのようなものだったのか、おやつ介助にあたった二人の職員がどのような動きをしていたのか、女性がいつドーナツを食べ始め、いつ身体をぐったりさせたのか、肝心なことをまったくつかんでいないのです。
弁護団の現場再現によれば、異変を発見した介護職員が異常の無い女性を最後に見てから異変を発見するまで、わずか二八秒でした。准看護師が、カフェオレを口にしながら異常の無い女性を見てから異変が発見されるまでの時間は、約一分でした。
警察も検察も、本当に女性がドーナツを誤嚥して窒息となり、それが原因で心肺停止となったのか否かについて、厳密な医学的検討をしていません。
おやつ時にドーナツを食べていた女性が、突然ぐったりとして意識を失っていたのを間近に見た准看護師や施設のスタッフは、「ドーナツを喉につまらせて窒息した」と思い込みました。そのため、その後のご遺族との示談や「再発防止のためのふり返り」では、誤嚥を前提に行動しました。だからといって、女性がドーナツを誤嚥し窒息して死亡したことが、客観的な真実であるということにはなりません。
本件では、死亡直後に病院の主治医が女性の脳CTを撮影していました。しかし、警察も検察も、その存在すら知らなかったというお粗末さでした。
■不満の目をそらす起訴
ではなぜ、今回このような乱暴な捜査や起訴がされたのでしょうか。一五年一二月一日、長野県健康福祉部長は、県警本部からの依頼を受けて、県下の介護等入所施設に対して通知を出しています。「入所者が亡くなった場合、警察では『事件性を判断するため』身体確認や施設の状況などについて確認している」とした、警察に対する協力要請の通知です。本来、警察は、犯罪があるとの合理的な疑いもないのに捜査に入ることはもちろん、「事件性を判断する」ために介護施設に入ることなどできません。
いま、介護の現場は大変です。職員の献身的努力によって、なんとかささえられているというのが実態です。政府は、一五年四月から介護報酬を二・二七%マイナスとする改定を強行しました。このような施策は、施設での転倒事故や誤嚥事故などを増大させ、遺族の方々の不満を高めるでしょう。
警察は、遺族の「代弁者」となることによって、政府に対する不満から目をそらしたい、介護施設全体に対する支配・介入の機会を拡大したいのです。
ここに、本件での警察や検察の性急でずさんな捜査・起訴のねらいが透けて見えます。
〈次回は、「刑事裁判はどうすすんでいるのか」 全四回〉
(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)