被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナーから(6) 被害者の「分断」
昨年開催した「被ばく相談員セミナー」で被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。六回目の今回は、「被害者の分断」について。相談活動では、しばしば出会う問題です。「原発による分断」とはどういうことか、整理しておきましょう。
「被害者の分断」は、日本特有の問題ではありません。脱原発を前面に押し出し、再生可能エネルギーの推進をはかっているドイツへの視察でも出会いました。原発が引き起こす「分断」の問題は世界共通の問題といえます。
■社会全体を分断
原子力発電所は、建設前から住民を引き裂きます。誘致をめぐり、賛成派と反対派に分けてしまいます。また、稼働後は、安全性や金銭問題で対立を生み出します。
福島県では、その上に事故が起きてしまいました。家族や地域、職場がバラバラに引き裂かれました。まず、「避難するかどうか」で意見が割れました。また「健康被害が出るかどうか」で、住民同士や支援者同士が対立することもありました。事故後の補償をめぐっては、汚染状況を基準にするという名目で区域割りがされ、被害者を分断しました。原発誘致からずっと、あらゆる段階・単位で分断や対立が生み出されてしまいました。
原発があると、その地域全体が引き裂かれた状態におかれます。私たちが、そうした社会構造があると理解しておくことは非常に大切です。
■時間経つほど孤立深まる
避難生活をしていた高齢夫婦の事例を紹介します。
原発事故が起きるまでは、息子夫婦と孫の三世代で暮らしていました。ところが事故で避難したきっかけに、家族がバラバラになり、夫婦二人だけの生活になりました。
時間が経つと表面的には避難先での生活にも慣れ、なんとか暮らしていました。一方で、孤立感は深まりました。「時間が経てば落ち着くと思っていたが、逆だった。どんどん孤独を感じるようになっている」と話しました。
避難体験を共有していた他の避難者たちも徐々に次の生活場所に散り、二人はさらに孤立していきました。その中で「何も良いことはない。あとは死ぬのを待つだけなのか。でも、そうしたら子や孫に迷惑がかかる」と話しました。
家族や慣れ親しんだ地域とのつながりが切れ、さらに避難生活を互いにささえあっていた仲間も失うという現状がありました。避難先を去り、地元に帰る人が徐々に増える中で、同様の問題がいろいろなところで起こるのではないかと思っています。
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次は、被害者の抱えるストレスについて。
(民医連新聞 第1621号 2016年6月6日)
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