被ばく相談窓口をつくろう 民医連のセミナー(5) 事例から考える「安全性」
昨年開催した「被ばく相談員セミナー」で被ばく問題委員の雪田慎二医師(精神科)が行った講演を連載しています。五回目になる今回は、「相談活動の安全性」を実際にあった事例から考えます。また、相談活動の継続についても考えます。
■被災体験話した女性
震災当日、職場で津波にあった女性の事例です。
本人は助かりましたが、同じ職場の同僚が目の前で流され、亡くなりました。その後、しばらく家で休んでいましたが、不安な状態で過ごしていました。そこで、「誰かと一緒に居る方が落ち着くだろう」と、職場復帰しました。
その後、表面的には落ち着いていました。そこに、全国からたくさんの支援者がやってきました。被災者との交流の場も設けられます。支援者から「被災体験を聞きたい」と要望があり、この方に依頼がいきました。ところが、その直後から不安感と緊張感が高まり、「なぜ同僚を助けなかったのか」と、強い自責の念が生まれ、非常に混乱してしまいました。
このように、辛い体験を話すことはリスクを伴います。前回、「温かみのある雰囲気」の大切さを強調しましたが、被災体験を話すのに最低限必要な条件は、「今なら、この人なら、この場なら話せる」と被災者が思えることです。この条件が整っていないなら、安全性の観点から中止した方が良いでしょう。日常診療での安全性と、基本的な考え方は同じです。
■関わり続ける
相談活動は継続してとりくむことも大切です。『被ばくパンフ』では、健診活動と一緒にとりくむことを提案しています。
埼玉協同病院では、「被ばく相談外来」を行っています。これは長年、原爆被爆者を対象に健診・健康相談などを行っていた「被爆者外来」の名称を変えたものです。福島第一原発事故後、放射線被ばくによる健康障害についての相談も受けています。希望者は健診も受けられるようにしています。
以前、健診結果を聞きに来た双葉町の人の相談を受けました。「このような外来があることは大変心強い。いつでも相談できると分かっただけでも安心できる」と話しました。やはり色々なところで相談窓口があると良いのです。
被害者が抱える問題には、すぐに解決できないことが少なくありません。「関わり続けること」が重要です。また、色々な専門家と連携して対応していくことも求められています。
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次回は、被害者の分断についてです。家族、住民同士、地域など、いろいろな単位で被害者が引き裂かれています。
(民医連新聞 第1619号 2016年5月2日)
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