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民医連新聞

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戦争反対 いのち守る現場から 元海上自衛官の民医連職員 中井聖行さん “総理、再び日本の国民を戦場へ駆り立てるつもりですか?”

 「戦争がどんなものか? 攻撃に参加することは憲法に照らしてどうなのか? その議論を避けて“解釈”で突きすすむことは許されない」。そう話すのは、富山・在宅福祉総合センター「えがお」の介護職、中井聖行さん(71)です。五〇代まで自衛隊で勤めました。安倍内閣が集団的自衛権行使を容認(二〇一四年七月、閣議決定)、安保法制を強行し、この三月に施行したことの危険性を語っています。(丸山聡子記者)

 昨年来、多くの人が「戦争反対!」と口にするようになりました。憲法九条のもとで育った日本国民のほとんどが、「戦争反対」には異を唱えないでしょう。しかし、果たしてどれだけの人が具体的な「戦争」を分かっているでしょうか。

■戦争、分かっているか?

 例えば先の戦争では約二三〇万人が“戦死”しました。このうち、実際の戦闘で命を落とした人はどれだけいたでしょう。六割は戦病死、なかでも餓死が多かったといわれています。戦地では、現地の住民への略奪とレイプが横行しました。「日本は良いこともした」という人もいますが、そんなことはありません。
 さらに、それだけの犠牲を出した戦争の責任は誰にあったのか、日本ではずっとあいまいにされてきました。戦争の責任者すら明らかにしない国ですから、まともな反省もありません。
 入隊したのは一九六〇年。みな貧しく、同級生たちのほとんどが中卒で就職する時代でした。船に憧れ自衛隊なら食べ物も衣服も用意され、給料までもらえる、と考えたのです。
 終戦から十数年しか経っていない時期です。人々は戦争に強い嫌悪感を持っていました。「税金泥棒!」と罵声を浴びたり、石を投げられたこともありました。「自分たちの国を守るために働いているのに…」と悔しく、自衛隊とは何かを問い続けてきました。

■“解釈”で存在している

 自衛隊では、「任務は専守防衛だ」とたたき込まれてきました。自衛隊の行動全てを規定した自衛隊法は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務」としています。
 自衛隊は、今の日本国憲法では認められていません。九条二項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」に違反するからです。自衛隊員の誰もが、「憲法に認められない存在だ」と自覚しています。
 一方、「自衛のため」「専守防衛のため」という理由から、自衛隊の存在について多くの国民が合意している現実もあります。しかし、この合意はあくまで“解釈”の範囲です。いつまでも“解釈”によって自衛隊を存続させるのではなく、「違憲状態の自衛隊をどうするか」という国民的な議論こそ必要だと考えます。集団的自衛権行使を決めるなら、自衛隊を憲法に認められた存在にするべきだというのが私の意見です。
 集団的自衛権が行使されれば、自衛隊は米軍と共同して攻撃に加わることになります。しかし「専守防衛」に「攻撃」の任務は入っていません。安倍政権は、「専守防衛」から「攻撃に参加する」という大転換を、またもや“解釈”でおしすすめようとしています。

■日米は軍事的に一体化

 皆さんの想像以上に、自衛隊と米軍の「一体化」はすすんでいます。自衛隊の装備の大部分は米軍と共通です。一緒に行動するには、弾薬などの武器を統一していなければ意味がないからです。裏を返せば、いつでも米軍への武器の提供が可能ということです。
 そうした実態を国民に知らせず、しかも国会で議論をしないまま憲法違反の「集団的自衛権の行使」に踏み出す。「安倍晋三は、歴代でもっとも危険な総理大臣だ」というのが多くの自衛隊関係者の認識だと感じています。安倍首相に、「再び自国民を戦争に駆り立てるつもりですか」と問いたい。現役の自衛官とその家族のことを思うと胸が詰まります。
 自衛隊で、「戦前、軍部が暴走し、日本は誤った戦争に突きすすんだ」「だから、戦後は“国民主権”となった」と教えられました。しかし、いま安倍政権がやっていることを見れば、「国民主権」とはいえません。戦後の自民党政権の主張を根本から覆すようなことを、国民的な議論もせず、閣議決定だけで決めてしまう。こんなことが許されていいはずはありません。“解釈”で国のあり方を変えるのではなく、国民の総意で国の針路を決めていくことが先決です。

(民医連新聞 第1618号 2016年4月18日)