第11回民医連表彰
総会では第一一回民医連表彰を行いました。民医連表彰は、民医連職員がまとめた論文や発表、著書の中から、選考委員会が表彰規定に基づき選考します。
今回の選考対象は、第一二回学術・運動交流集会から二〇題、第一二回看護・介護活動研究交流集会から二一題、その他四題。選考の結果、論文部門二題、発表部門五題(三演題をひとつの共同研究として)が表彰されました。
選考委員会の馬渡耕史委員長は、「共通するのは、SDH(健康の社会的決定要因)の視点が現場に確実に定着し、民医連の綱領、理念が生かされていることです。一〇年、二〇年と同じ患者さんを診て、一〇、二〇年後の患者さんがどういう状態になっているかを記録している点で、学術的な価値があります」と強調しました。
子どもの貧困に関する研究を小池晃参院議員(共産)が国会で取り上げたことに触れ、「安倍首相は『日本は貧困でない国の層に属する』と言い放ちました。これが安倍政権の実態であり、これに対し、私たちは現場から実態を突きつけていきたい。その意味でも大きな表彰です」と紹介しました。
受賞一覧
受賞演題と受賞者は、以下の通りです(敬称略)。
論文部門
「歯科診療所におけるメインテナンスに関する一考察―歯の喪失状況からみた10年間のメインテナンス効果について」
岡恒雄(岡山・医療生協玉島歯科診療所、歯科医師)
「沖縄県の肝疾患死亡率、当院の肝硬変の成因別実態―沖縄県のアルコール消費量について―」
仲田精伸(沖縄・沖縄協同病院、医師)
発表部門
「子どもの医療費助成制度 拡充に向けての取り組み」
伊藤勝太(岩手・盛岡医療生活協同組合、事務)
「外来通院患者のソーシャルバイタルサイン(SVS)調査の取り組みと今後の課題」
幌沙小里(北海道・苫小牧病院、看護師)
「名古屋市における路上生活者精神保健調査の結果概要と支援における課題と展望」
渡邉貴博(岐阜・すこやか診療所、医師)
「リハビリテーション科でのSDH事例報告会」
對馬圭(青森・健生病院、理学療法士)
(以下三題は共同研究として)
「貧困が子どもの健康に及ぼす影響 外来診療での子育て世代実情調査について」
佐藤洋一(和歌山・生協こども診療所、医師)
「貧困が子どもの健康に与える影響 入院小児の実情調査」
和田浩(長野・健和会病院、医師)
「貧困が子どもの健康に及ぼす影響―妊娠中から一カ月健診までの児の社会的背景」
山口英里(福岡・千鳥橋病院、医師)
受賞者の声
総会では、受賞者の岡恒雄さんと幌沙小里さんがあいさつしました。紹介します。
「歯科診療所におけるメインテナンスに関する一考察」
民医連医療の普遍性に気づく
岡恒雄さん(歯科医師)
これまでの倉敷医療生協歯科群のとりくみが評価されたと考えています。調査をする中で、民主的集団医療や生活と労働の場で疾患をみる視点など、民医連医療の普遍性に改めて気づかされました。
今回の論文で明らかにできたことは、メインテナンスを行うことにより、口腔の健康が維持できること。同時にメインテナンス来院の無い人との健康格差が明らかになったことです。七〇歳代でみると、メインテナンス群では歯の喪失が一・一本に抑えられていたのに対し、メインテナンスに来られていない群では、四・四本の歯を失っていました。
この成果と課題を患者・組合員さんと共有し、より健康な社会生活が送れるように、民医連らしさを追究していきたいと思います。
「外来通院患者のソーシャルバイタルサイン(SVS)調査の取り組みと今後の課題」
住み慣れた地域で暮らし続けるために
幌沙小里さん(看護師)
勤医協苫小牧病院は、人口約一七万人の北海道の地方都市にある「地域のかかりつけ病院」です。高齢者の独り暮らしや二人暮らし世帯が増え、通院患者さんの多くは慢性疾患を抱えた高齢者です。
三年前、私たちは予約外来に通院する高齢患者さんの孤独死を経験しました。もっと何かできる事はなかったのか、チームで振り返り、健康権の学習を経て、SVS調査を開始しました。SVSとはソーシャル・バイタル・サインのことで、食生活や労働時間など、社会の中で生きる指標です。現在約六〇〇件。六〇歳以上の独居率は三九%を超えています。調査から見えてきた患者さんの状況を、病院全体、地域の友の会、地域包括支援センターとも共有し、連携が始まっています。
課題は山積みですが、多くの皆さんと力を合わせ、高齢や認知症になっても、住み慣れた地域で安全に安心して暮らし続けることのできるネットワークづくりにつなげていきたいと思っています。
(民医連新聞 第1616号 2016年3月28日)