被ばく相談窓口をつくろう 番外編 埼玉協同病院・被ばく相談外来 どんな不安にも誠実に向きあう
「被ばく相談窓口をつくろう」シリーズ、本紙五面で連載中ですが、今号は番外編として埼玉協同病院で開いている「被ばく相談外来」に行ってきました。放射線被ばくに関連した健康相談やこころの問題など、幅広い相談を受けています。担当医は雪田慎二さん(全日本民医連・被ばく問題委員)です。
(田口大喜記者)
火曜日午後の埼玉協同病院、「子どもが水道水で被ばくしたかも!」赤ちゃんを抱えた若いお母さんが、前のめりで雪田医師に話します。水道水でミルクを作って飲ませているとママ友に話したところ、「水道水は放射能で汚染されている」「それは危険だ」と指摘され、青ざめた経緯を話しました。インターネットで調べても情報は錯綜し、真実は分からずじまい。そんな中、埼玉協同病院に被ばく相談外来があると発見し、ワラにもすがる思いで診察の予約をしました。お母さんは、「どんな影響があるのか?」「治療が必要か?」矢つぎ早に不安を出しました。
雪田医師は精神科医。どんな不安にも正面から向き合い「ご飯を食べているか?」「発育の状態はどうか?」とていねいに聞いていきます。
水質調査で汚染の心配はないと分かっていること、だから水道水でミルクを作って大丈夫だと説明しました。食品やレントゲンの被ばくなどの心配に関しても、分かりやすく伝えました。「ネットの情報や噂を鵜呑みにしないで」。
焦燥した面持ちで診察室に入ってきたお母さんが、笑顔で診察室を後にする姿が印象的でした。
「直接的な原発事故の被災者でなくとも、環境汚染の健康不安で相談に来る人は多いんです」と雪田医師。子どもへの影響を心配した親が、半数以上を占めるそう。原発事故による放射能汚染の恐怖は、根深いものとなっています。
「被ばくについての不安を消すことはできませんが、この相談の中で今までの生活の仕方や子育てのあり方を振り返る機会にしてもらうことを心がけています。そのことが安心につながるようです」。
相談外来の移り変わり
被ばく相談外来は、広島・長崎の原爆被害者を対象に健診や相談を長年行ってきた「被爆者外来」が前身。自身も被爆者である肥田舜太郎医師(九九)が立ち上げた外来です。八年前、肥田医師の引退とともに雪田医師が引き継ぎました。
原発事故以降、「被爆者外来」では原発事故被害者の相談も並行して行っていました。が、埼玉県は福島県からの避難者数が、五一〇二人(二〇一六年一月一四日現在)と、被災三県以外では東京都に次いで多い数です。「関東には被ばくについての相談窓口が少ない」「避難者をどこに紹介するべきか?」全国から、こんな声が雪田医師に届きました。「民医連こそ、こうした人たちの相談にのってほしい」との期待もありました。
そこで、「被爆者外来」から「被ばく相談外来」へ名称を改め、インターネット上でも知らせました。被ばくの健康不安は多数寄せられ、「地元の病院を信用して良いか分からない…」と福島県から埼玉まで来る人がいるほどです。
さらに雪田医師は、同じく「被爆者外来」を開いていた近県の民医連事業所にも呼びかけ、「被ばく相談」の窓口を増やしました。
心のよりどころめざす
原発事故被害者の健康不安や生活再建がいまだにままならない中、政府は賠償を打ち切るなど、「被災者の切り捨て」をすすめています。この流れを受けて、全日本民医連では被ばく相談活動の強化を提起しました。
「これから相談活動をはじめる」という事業所に向け、どんな姿勢でとりくめばいいか、雪田医師はこう話しました。「民医連が普段からとりくんでいる健診・相談活動の延長線上です。今まで蓄えてきた総合力で十分対応できる」。「大事なのは専門的なメンタルヘルスの知識ではなく、どんなことに困っているのか? よく聞いて生活支援をすること。被害者の心のよりどころになりましょう」。
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「原発被ばくに関しては、まだまだ先の長い問題です。この先二〇、三〇年とこの問題にとりくみ続けられるのは民医連しかありません」と雪田医師。メディアの報道が格段に少なくなっているいま、最も恐れるべきことは福島の「風化」です。これは、民医連の中でも例外ではありません。学習ととりくみの継続を呼びかけています。
(民医連新聞 第1615号 2016年3月7日)
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