元日本軍「慰安婦」の証言集会 ハルモニが求めているのは 生きているうちに解決を―姜さん そこは「死刑場」でした―李さん
一月二六日~三〇日、全日本民医連は、市民団体や労組と、韓国から元日本軍「慰安婦」のハルモニ(おばあさん)を招き、東京・大阪五カ所で証言集会を行いました。看学生などを含む八六二人が参加。おりしも昨年末、日韓両政府が日本軍「慰安婦」問題で“合意”を発表した直後の来日です。内容は求めるものと遠く、ハルモニたちは、この“合意”を認めていません。思い出すのもつらい被害の記憶と、日本政府に何を求めるのかが語られました。(丸山聡子記者)
来日したのは、被害者が共同生活をする「ナヌムの家」の李玉善(イ・オクソン)さん(88)、姜日出(カン・イルチュル)さん(87)、「ナヌムの家」所長の安信権(アン・シングォン)さん。現在韓国に生存する被害者は四六人、平均年齢は八九・二歳です。
■“合意”当事者抜き
昨年一二月二八日の日韓合意で日本政府は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と責任を認め、「おわびと反省」を表明しました。
ところが“合意”は当事者に連絡もなく決まり、当事者が求める「軍の責任を明確に認めた上での謝罪、法的賠償、真相究明、再発防止」とはかけ離れていました。日本が拠出するとした一〇億円も賠償とは違います。
しかも、合意後には自民党の桜田義孝元文部科学副大臣が「(慰安婦は)職業としての娼婦、ビジネスだ」と発言、政府もこれを正していません。また日本政府は合意後、「慰安婦を強制連行した証拠は見つかっていない」とする見解を国連機関に公式に伝達。“合意”内容を遂行する意思があるのかも疑われる姿勢です。
「ナヌムの家」のアン所長は、「これは個人の人権と請求権の問題ですが、当事者たちは合意をテレビで知った」と経過を説明。「早期に解決し両国が真に交流できるように、ハルモニの証言を次代に伝えたい」と話しました。
■いまも殴打の後遺症が
「日本政府になぜ謝罪を求めるのか、皆さんと考えたい」。証言集会で、イさんは語り始めました。生家は貧しく「養女」の名目でよその家で働いていました。一四~一五歳の時、お使いの途中、道端で二人の男に連行されました。
「行き先は日本軍が中国に作った“慰安所”でした。そこが何をするところか、分かりませんでした。それほど幼い一〇代前半の娘たちが集められていました」と、イさん。少女たちは一日に四〇~五〇人もの日本兵と性交渉を強いられました。耐えきれず自ら命を絶った少女は多数。拒んだ者は、皆の前で殺されました。遺体は通りに捨てられ、野良犬の餌食となり、骨すら残りませんでした。
逃亡を図ったイさんも、激しく殴られた上、日本刀で斬られるなどの制裁を受けました。いまも腕や足に傷跡が残り、耳や目もこの時の後遺症で不自由です。「私たちが居たのは本当に“慰安”の場だったのでしょうか? そうではありません。“死刑場”です」。
カンさんも一五歳で中国の慰安所に。「人間扱いされず、お母さんに会いたいと泣くと殴られた」と、頭の傷跡を見せました。「被害のことを話すたび、心で涙を流しています」とカンさん。時折気持ちが高ぶり、語気を強めます。「お金が欲しいのではありません。日本政府は具体的な加害の事実を認め、私たち被害者に直接謝罪すべきです」。
■証言を聞いた職員は
大阪民医連の林雅大さん(三三、事務)は、初めて証言を聞きました。“合意”発表後、「詫びたのだからいいのでは?」と言う友人がいたり、「韓国では反発が起きている」と報道があったり…。「直接ハルモニから真実を聞きたい」と考えました。参加して、ソウルの日本大使館前で一九九二年から毎週続いている水曜行動(一二〇〇回超)や、史実を遺すため韓国の人たちが大使館前に建てた少女像のことを知りました。
「この事実を歴史から消すのは絶対おかしい。自分の二人の娘と重ねると胸が詰まって…。過ちを繰り返さぬよう多くの人に知らせたい」と話します。この後、大阪で毎月行われている水曜行動にも林さんは初めて足を運びました。
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二人のハルモニは語ります。 「敗戦後、日本軍は私たちを山奥に残して逃げました。韓国に戻れたのは二〇〇〇年。嘘はついていません。日本の首相はナヌムの家に話を聞きに来てほしい」(イさん)。「生きているうちに解決を。戦争すれば必ず国民が傷つきます。韓国も日本も、他国を侵略してはいけません」(カンさん)。
当事者たちの尊厳は回復してはいません。早期解決のためにも、この事実を国内に広げる必要があります。
日本軍「慰安婦」…旧日本軍が戦地に設置した「慰安所」で、軍の管理下で兵士との性交渉を強いられた女性。誘拐や暴行・脅迫、人身売買など、当時の刑法や国際条約にも反する形で連行され、外出や性交渉の拒否などの自由はなかった。国際的には「性奴隷」と呼ばれる。朝鮮や中国のほか、フィリピン、インドネシアなど日本が侵略した国の女性が多かった。
(民医連新聞 第1614号 2016年2月15日)
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