3年間の「集中改革期間」で前代未聞の社会保障解体ねらう
安倍政権が押しすすめる社会保障改革。昨年六月に策定された「経済・財政再生計画」は、計画達成年度の二〇二〇年度に向け、一六~一八年度の三年間を「集中改革期間」と位置づけました。どのようにすすめられるのか、私たちはどう対抗するのか。全日本民医連国民運動部長・石川徹副会長に聞きました。(土屋結記者)
全日本民医連国民運動部長 石川徹副会長に聞く
安倍政権は社会保障を「改革」どころか「解体」し「市場化・成長産業化」していこうとしています。つまり、本来は公的責任で行うべき医療や介護を営利企業に明け渡し、国民の健康やいのちまで金儲けの手段にしようというのです。権利であるはずの社会保障が、「カネで買うもの」にされようとしています。これを強く打ち出したのが、一五年六月の「経済・財政一体改革(骨太方針2015)」で、財政健全化と経済再生が柱になっています。
■社会保障の“解体”とは?
では、気になる解体の内容を見ていきましょう。左表が「経済・財政再生計画」に沿って検討されている内容です。診療報酬・介護報酬のマイナス改定とあわせて、様々な部門での負担増やサービス切り捨てを行い、社会保障費用の抑制を狙っています。これまでにないほど切り捨てが顕著になっています。
「社会保障費の年間自然増一兆円を五〇〇〇億円に抑える」という数値目標も出ています。自然増とは、高齢者の人口増加や、医療技術の進歩などによって、特に制度の充実などを行わなくても増えていく社会保障費のことです。これを必要な額の半分に抑えるには、「患者申出療養制度」などを導入して新しい医療を自費にするなどという見直しだけではとうてい到達できません。その方策が左表のような改悪の連打になるのです。一二年八月の「社会保障制度改革推進法」で、「自助・共助」を強調し、憲法二五条に基づく権利としての社会保障を「国民相互の助け合い制度」へと変え、国にとって安上がりなものにしようとしています。
■なぜ加速したのか
社会保障費の抑制は、自民党政権のもと三〇年も前から検討され実施されてきているものです。小泉政権(〇一~〇六年)時代には「民間にできることは民間に」という構造改革が行われたことを覚えている方も多いと思います。
しかし、なぜ安倍政権になってからこんなに急スピードですすんでいるのか、それには国民の意識が変化させられてきたことがあるとみられます。
〇四年のイラクにおける日本人人質事件をきっかけに、政府与党は「自己責任論」を展開、また生活保護バッシングはじめ各種の意識的なキャンペーンを張り続けてきました。それらが、社会保障の解体をすすめる素地づくりになっていると思います。
「お金が無ければ保障を受けられないのも当然」と国民の意識を操作し、権利としての社会保障を否定する。それは「基本的人権」、つまり人として生きる権利そのものを尊重しないということです。
思想的にも攻撃して“洗脳”し、人のいのちを大切にしない社会、「戦争」を肯定する社会をつくろうとしているのです。
■徹底していのちを守る
「社会保障の充実」と「戦争」は対極にあるものです。だからこそ、民医連は綱領に「人類の生命と健康を破壊する一切の戦争政策に反対」と掲げています。
医療・介護の原点は、自分の目の前にいる人のいのちや健康を徹底的に大切にすること。「一人ひとりのいのちを大切に」「基本的人権を守れ」ということを軸に、社会保障は権利であることを政府に守らせましょう。
このまま何もしなければ、安倍政権の思うままに流れていきます。社会を変えるためには、私たち自身も変わらなければなりません。署名する、集会やデモに参加する、地域訪問してみる、どんな小さなことでも、自分が何か行動することが社会を変えることにつながっていきます。
社会保障制度を自分のものとして捉え、どう考えるのか。困難を抱えた人と出会った時、何らかの行動をする。そこに、民医連職員としての生きがいや、やりがいがあると思います。
使おう!「社保パンフ」
新しい「学習用社保パンフレット」ができました。各県連に発送しています。「二〇一六年前半の社保・平和の運動方針」を具体化するために、学習資料として活用して下さい。
〈問い合わせ〉 全日本民医連国民運動部
聞いてきました! 「知っていますか?この改悪計画」
政府がさらに空前の負担増を検討していることは、あまり報じられていない気が…。ちまたでは、どれだけ知られているのか? 東京・代々木病院と健康友の会が行っている「ころばん体操」にお邪魔し、参加者に聞いてみました。
負担増の項目を示して聞くと、10人全員が「知らなかった」という項目も多数。「年金支給額は毎年減額」や「預貯金あれば入院中の食費、居住費減額なし」を「知っている」と答えた人は2~3人でした。
全員が「知らない」と答えた「一般病床の入院患者さんから水光熱費を徴収」については、「ええ~?!」「ひどすぎるね、病気で入院するのに…」とため息。70代の女性は、「75歳以上の医療費負担を2割にするという発想に、本当に怒りを覚えます」と言います。
「知らないことは恐ろしい」「政府もマスコミもちゃんと知らせるべき」との声もありました
(民医連新聞 第1614号 2016年2月15日)