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民医連新聞

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相談室日誌 連載405 家族の支援のない事例から「見えない問題」を捉える目(三重) 

 Aさんは八〇代の独居女性です。大腸がんで、ステントを留置していますが、定期通院ができず、腹痛症状があると来院します。内服薬も紛失しがちで管理は困難。ADLは自立しており、時間を問わずホテルのロビーや駅ビルなどのコミュニティースペースで過ごし、食事時は自宅に戻り配食弁当を食べる生活です。認知症テストでは、軽度認知症が疑われました。
 そんなAさんの金銭管理は娘さんが行っています。ところが娘さんは遠方に住み、精神疾患も抱えているため連絡がとりにくく、必要なお金が届きません。そのため、Aさんは医療費や税金、公共料金などを滞納しています。
 地域包括支援センター、行政、警察、消防、保健所、病院などでAさんの情報共有に地域ケア会議を開きました。行政は当初、「家族の問題だ」と介入しませんでしたが、二年の相談を経て、経済的虐待事例と判断し成年後見制度の手続きを始めたと、この場で報告しました。
 年末年始は警察から問い合わせが。「Aさんが自宅にいないが、受診の記録はないか?」というものでした。後に神社に年越しそばや甘酒をもらいに行っていたのだと分かりました。食べ物も目的だったかもしれませんが、ひとり自宅に居るのが寂しかったのかもしれません。
 Aさんは入院中「ここのように、誰かがいるところで生活したい」と話したことがありました(しかし「これまで通り生活できる」と気持ちが変わることもあります)。
 現在は自由なAさんの生活も、病状がすすめば変わる可能性があります。その時までに本人が安心して暮らせる場所を確保すべく、地域包括支援センターを軸に見守りを続けます。
 今回のように、家族との連絡がとりづらいケースは珍しくなくなりました。虐待、障がい、引きこもりなど、家族関係が複雑化し、家族のささえが受けられません。関係機関で協力し、当事者・家族に寄り添う支援が必須です。問題の背景には不安定雇用の拡大や、強まる自己責任論などがあるでしょう。見えている問題だけでなく、生活や社会を捉える「目と構え」がますます求められていると思います。

(民医連新聞 第1613号 2016年2月1日)