相談室日誌 連載404 精神障害者が、自分らしく地域で生きていくために(奈良)
精神科病棟に入院中のAさんは五〇代ですが、一〇代の頃に精神疾患を発病して以来、ずっと入院していました。「本当は退院したい。でも家族から“帰ってきては困る”と反対される。住んでいた家に帰りたい」と話します。同じように十数年入院しているBさんは「退院したいけど、母も父も亡くなって親戚とも連絡がとれない」と。精神科病院には、発病がきっかけで家族や社会と切り離され、様々な理由で退院できなくなった人が多く入院されています。
一九五〇~八〇年代に国策としてすすめられた精神障害者の「保護・隔離政策」はこのような形でいまも続いているのです。入院すると、食事や入浴、薬、お金など、日常生活のさまざまな部分が管理されます。治療のためには一時的に必要なこともありますが、それが長期にわたると日常生活に必要な社会的技能が失われ、さらに退院への意欲が失われていきます。これがホスピタリズムです。
長期入院経験のある患者さんは言います。「入院して最初の半年は退院したいと思った。でも一年を過ぎると主治医も周りの人も退院という言葉を口にしなくなった。そして自分も退院するのが怖くなった」と。
このような方々が退院して、もう一度自分らしい生活を取り戻し、地域で暮らすことができるよう、当院では、多職種チームで「地域移行プロジェクト」を立ち上げました。住まいの場であるグループホームをはじめ、長期入院者を地域で支える体制づくりを目指します。障害福祉サービス「地域移行地域定着支援事業」との連携を図りつつ、退院困難者の不安、例えば切符の買い方、電車の乗り方、ゴミの出し方、日中の過ごし方、家族との調整など一つ一つの不安にていねいに寄り添い、その方が意欲を取り戻せるような支援も必要です。そのため専任者の設置も準備しています。
地域の中で医療、介護、住まいの場、相談機能などが連携し、一人でも多くの方に「やっぱり自分の家はいいなぁ」「退院して良かった」と言ってもらえるようなとりくみを目指したいと思っています。
(民医連新聞 第1612号 2016年1月18日)