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民医連新聞

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高齢者の貧困、社会保障改悪 「どう立ち向かう?」 全日本民医連介護・福祉責任者会議で議論

 11月13~14日、全日本民医連は介護・福祉責任者会議を東京で開催しました。242人が参加。介護報酬の削減による影響や利用者負担増などの改悪に立ち向かうたたかい、無差別・平等の地域包括ケア、職員育成などをテーマごとのセッションで深めました。また、長野・あずみの里の裁判闘争について、これまでの経過とたたかいへの協力をよびかける特別セッションももちました。

(木下直子記者)

 今年度の会議の目的は、(1)社会保障制度改革の全体像や高齢者・国民の実態をはじめとする情勢を深くつかみ、認識を一致させる、(2)民医連がめざす無差別・平等の地域包括ケアについて改めて掘り下げる、(3)介護ウエーブ、地域包括ケア、職員養成などこの間の到達点や各地の経験を共有するとともに、第四二期を見据え、無差別・平等の地域包括ケアの実現に向けた方針、重点課題について論議し意思統一を行う、の三点です。

介護をめぐる情勢 「25条の解釈改憲」

 問題提起は、高田一朗事務局次長が行いました。冒頭、「強行された戦争法のもと、軍事費確保が優先され、弱者切り捨てや社会保障費の削減がいっそうすすむ。憲法九条と二五条の破壊の根はひとつ」と情勢にふれました。社会保障制度改革推進法(二〇一二年成立)が、国民の権利である社会保障を変質させる「憲法二五条の解釈改憲」であり、地域包括ケアや介護制度の見直しは医療改悪と一体だと解説。今年の「経済財政改革の基本方針(骨太方針)」には、これまでの骨太方針にあった「社会保障の機能強化」の文言が削除されており、「今後の社会保障改革は、社会保障費の抑制・削減のみを目的にすすむ」と指摘しました。
 介護制度の改悪とその影響については、今年度断行された予防給付、施設給付、補足給付、利用料の切り捨てが、サービス中止にまで追い込まれる利用者を出していること、一方の事業所も介護報酬マイナス改定で大打撃だと報告。介護職不足は二五年に三八万人にもなるとの見通しが厚労省から出ましたが、同省が検討するのは処遇改善でなく、専門性を落とし、安上がりな対応策ばかりです。
 こうした状況を打開するための介護ウエーブ方針と、無差別・平等の地域包括ケアへのとりくみ方、育成、経営、事業計画の留意点なども確認しました。

日本の高齢者の現状 「孤立は貧困とともに現れる」

 明治学院大学の河合克義教授が「高齢者の貧困・孤立の実態と今後の社会保障・社会福祉のあり方」と題して講演しました。「日本の高齢者の貧困は、世界の中でも深刻な事態。日本の単身高齢者六〇〇万人の半数が年収一二〇万円以下で暮らしており、うち二〇〇万人が生活保護も利用していない」―。こう語った河合さんは、NHKが「老人漂流社会」で報じた高齢者の実態も紹介しつつ、UR都市機構(旧公団住宅)や東京監察医務院などの孤立死データ、高齢社会白書、これまで河合さんが自治体とともに行った数々の高齢者調査などの資料を示し「高齢者の孤立は貧困とともに出現している」と分析しました。
 今後の社会保障のあり方をめぐっては、高齢者全体の要介護(要支援)認定者の割合=認定率は一七・八%、さらに介護保険サービスの利用は認定者の八割程度であることを紹介し「介護保険の枠外にいる人を把握して」と呼びかけ。こうした問題意識で、東京都港区では七五歳以上で医療や介護サービスを受けていない住民を訪ねる「ふれあい相談員」ができたことも紹介。「本来は国が行うべき制度」と考えを話しました。

3つのセッションで討議 運動・地域包括ケア・育成

 一日目午後は、三テーマのセッション、計一〇本の実践報告や提案がされました。
 「情勢と介護ウエーブ」のテーマでは「動画で介護改善を訴え。社保協の介護報酬改定に関わる事業所アンケートを契機に介護を考えるシンポを民医連外事業所と開催」(静岡)、「介護制度改悪の利用者への影響をまとめた」(石川)、「結成した県連の介護職部会を軸に活動交流や運動を展開。地域の『介護を良くする会』結成も目指す」(群馬)の報告が三本。
 「無差別・平等の地域包括ケア」では四人が報告(別項)。また「職員養成」は「民医連の介護・福祉分野キャリアパス作成指針案」と「民医連のケアマネジャーの役割について」の二つの提案と、キャリア段位制度に対応し、段位認定者を誕生させた酒田健康生協(山形)の報告がありました。
 二日目は受け止めや活動交流を行う分散会と、福祉用具事業所分科会を行いました。


セッション報告から
「無差別・平等の地域包括ケアのとりくみ」

◆医療法人財団アカシア会(東京)の高杉春代さんは、認知症の包括的ケアについて報告しました。同法人は一つの診療所と複数の介護・福祉事業所を運営しています。
 二〇〇〇年初頭、「もの忘れ外来」のスタートと同時にグループホームなど認知症介護施設も開設。認知症でもその人らしい人生を続けるには、住まいや生活支援と、切れ目ない医療・介護サービスが欠かせない、という視点ですすめてきました。国の地域包括ケアとの違いを意識し「地域立脚型の認知症支援」と名付け、もの忘れ外来を拠点に地域の医療機関や行政機関と連携しています。
 ケアは自己選択・自己決定を尊重したもので、軽度者の行動・心理症状が改善したり、中・重度者が調理をし、買い物にも出るという興味深い実践も紹介。「地域包括ケアは一〇地域あれば一〇色のシステムになる。認知症の人が暮らしやすい地域づくりは、誰もが暮らしやすい地域の再生でもある」と結びました。

◆けいはん医療生協(大阪)の小寺峰志さんは、「地域まるごとケア」をかかげ展開してきた事業について報告しました。法人は大阪東部の寝屋川・門真・守口の三市に三つの診療所を含め、二七の事業所を持っています。高齢化する地域で、入院施設や老健、特養を持たない(持てない)法人が地域要求にどう応えるか? という課題に向き合った結果、看取りを患家や小規模多機能施設、グループホーム、サービス付き高齢者住宅、介護付き有料老人ホームで行うことや、暮らしをささえる全事業を視野に事業計画をすすめるなどの挑戦になりました。「基本は、誰にでもある二つの願い~いざというときの安心/元気に暮らし続けたい~の実現です」と、小寺さん。
 また、医療と介護の事業だけでは切れ目ない支援ができない問題は、医療生協の強みを活かし、組合員の助け合いで隙間を埋めようととりくんでいます。

◆健友会(東京)の菅井一郎さんは、友の会と法人の「地域包括ケア推進委員会」の活動を紹介。地域包括ケアを焦点にした法人の長期計画を踏まえ、今年四月に立ちあげた委員会ですが、当初の反応は「政府が使う『地域包括ケア』は良いイメージがない」「地域のことは知っている。いまさら地域分析?」といったもの。月二回の委員会で学習や地域分析にとりくむうち、事業所の目指すことが地域の願いに沿っていること、友の会のとりくみが地域包括ケアに活かせることなど発見がありました。なお地域分析は、人口密度・住環境・年齢構成や人口動態のほか、法人の九つの診療所の訪問範囲や、日常生活圏域ごとの施設分布・友の会会員割合、入院してから在宅に戻れなかったケース、自治体の高齢者施策など。年明けには「提言」としてまとめます。法人の入院・在宅・介護の機能を包括する実践部隊として「地域包括ケア部」の設置も検討中です。

◆汐田総合病院(神奈川)を運営する横浜勤労者福祉協会の大間知哲哉さんは、医療・介護、地域連携、まちづくりの総合展開をどうすすめているかを語りました。
 「新しい時代の連携強化」として、総合ケアセンター室の設置や法人・グループ内の連携強化、医療介護の連携とともに、地域の医療機関とは競争でなく互いに無いものを補いあう連携をつくることやまちづくり運動との連携など六つの重点を掲げています。
 また地域では昨年、区医師会や歯科医師会、薬剤師会、区介護事業所、町会、民生委員、友の会などが参加した地域包括ケアを考える集まりを持ち、以降「川のまちエリア会議」として会議と学習会が定期的に続いています。

(民医連新聞 第1609号 2015年12月7日)