全日本民医連理事会での講演から 一橋大学名誉教授 渡辺治さん この夏のたたかいを振り返る 戦争法を廃止するための道は―
一一月二〇日、全日本民医連理事会で一橋大学名誉教授の渡辺治さんが「戦争法反対運動の到達点と廃止の展望」と題して講演しました。要旨を紹介します。
(丸山聡子記者)
■“違憲”で危険な中身
戦争法の狙いは、アメリカの戦争に日本が全面的に協力する態勢をつくり、憲法にもとづく「自衛隊の活動への制約」を取り払うことです。これは、アメリカが長年日本政府に要請してきたことでした。
憲法九条は「戦争放棄」「武力を持たない」と規定しています。歴代自民党は、そうした憲法があっても自衛隊を存続するため、「海外派兵はしない。個別的自衛権は認めるが集団的自衛権は違憲」「武力行使はしない。後方支援も制限」という二つの制約を設けていました。
戦争法はこれを根本から変えます。「後方支援」を口実にすればアメリカの戦争にあらゆる形で加担できます。「非戦闘地域」に限定してきた自衛隊の派遣先を、「現に戦闘行為をしている」場所でなければどこでもOKに拡大。戦闘が始まったら自衛隊だけ撤退するなど、不可能な説明をしています。そうなれば攻撃されるし応戦する。「殺し、殺される」事態です。
「後方支援」の内容も物資の輸送から整備、医療や通信、訓練など「武力行使を除く全て」に拡大しました。戦闘中の同盟国に提供できないものは実質なくなり、核兵器も化学兵器も提供できます。
■2つの“共同”が力に
八月上旬までに戦争法を成立させようとしていた安倍首相の思惑に反し、反対運動は広がりました。きっかけは六月の衆院憲法審査会で三人の憲法学者全員が戦争法案は「憲法違反」と表明したことでした。「自衛隊や日米安保は合憲」という立場の学者がこぞって「違憲」と表明した衝撃は大きく、マスコミも反対運動を報道するようになりました。どの世論調査でも戦争法反対は六割、「説明が不十分」の声は八割にのぼりました。
背景には二つの共同があります。ひとつは連合系の平和フォーラム、全労連や民医連が参加する憲法共同センターなど一九団体が「戦争させない・九条壊すな! 総がかり行動実行委員会」を結成。国会包囲など一万人超が参加した行動は一二回。民主、共産、社民、生活の各党なども合流しました。六〇年代の安保闘争以来、実現できなかった画期的な共同です。
二つ目は、政治的立場や政策の違いを乗り越え、「平和」と「民主主義」でつながった共同です。日米安保や自衛隊に賛成の人も反対の人も、「自衛隊が海外で戦争することに反対」という一点でともに声をあげました。
毎日新聞の調査では、回答した三〇九議会のうち、戦争法反対決議をあげたのは一六九議会、うち一一四議会で与党議員もこれに賛成しています。SEALDsやママの会など学生や女性の運動も生まれました。
■運動で声掘り起こし
運動の広がりは戦争法の解釈に歯止めをかけ、その発動にもブレーキとなっています。築いた共同と政党間共闘、憲法の「戦争しない国」への確信、政治を変える必要の自覚―を確信に運動を広げましょう。戦争法を発動させないことが廃止につながります。
そのためにも戦争法を廃止する政府を作る必要があります。戦争法に反対する六割は人口に置き換えると四八〇〇万人。そのうち行動したのはまだ一部です。「抗議行動に参加した」のは三%、「参加したい」と回答したのは一三・六%という調査もあります(産経新聞)。二〇〇〇万人を目標にした「戦争法の廃止を求める統一署名」は、こうした潜在的な声を顕在化させるとりくみです。
「戦争法廃止」の一点で共同の敷居は低く、けれど、たたかいの中では戦争法にとどまらず、辺野古の新基地建設やTPPの問題なども学び、成長していくことが大事です。
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安倍政権は同時に、構造改革を推進し、社会保障を解体しようとしています。
民医連の皆さんには、「構造改革に反対し、暮らしを守るたたかい」と「憲法が生きる日本を実現するたたかい」を車の両輪として奮闘することを期待しています。
わたなべ・おさむ 一橋大学名誉教授。主要研究領域は、政治学、日本政治、憲法学。近著に『〈大国〉への執念~安倍政権と日本の危機』(大月書店・共著)など
(民医連新聞 第1609号 2015年12月7日)