「TPP大筋合意」なにが決まったのか? 全国食健連・坂口正明事務局長に聞く
一〇月五日、TPP(環太平洋経済連携協定)※交渉の「大筋合意」が発表されました。TPPには、農・漁業、医療、文化などの幅広い分野で反対の声があがり、民医連も反対してきました。現段階で判明した問題や、今後の運動について、全国食健連(国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会)の坂口正明事務局長に聞きました。
■紙1枚の「大筋合意」
一〇月五日、「TPPは大筋合意した」と発表された時点の関係文書はペーパー一枚でした。協定文書の他、数種の付属文書の整理が行われています。一一月五日に条文と付属書等の概要が公表されましたが、詳細の公開が必要です。
合意まで推移を明かさない秘密交渉でしたから、内容が明らかになるにつれ、私たちは「日本はここまで譲歩したか」と思いました。一四の県農協中央会も抗議声明を出しました。
一方、世論調査で合意を評価する声が多いのは「食品が安くなる」「日本企業の海外進出が有利」との報道の影響でしょう。
内閣府は「日本は交渉をがんばった」という報告書を出しました。ところが同じ「合意」内容を伝えたアメリカ通商代表部の報告書と見比べると「なぜそう書く?」というほど違います。たとえば、企業が利益を侵害されたとして政府を訴えるISD条項で「公的分野はバリアを作るので訴えられません」と日本側は説明しますが、アメリカの文書には「例外リスト(未公開)にないものは皆ISD対象」と書いてある、という具合です。
消費者に真実を伝えてゆく必要があります。
■国会決議破った政府
日本政府は「聖域」としていた主要五品目(米/麦/牛・豚肉/乳製品/甘味資源作物)すべてで、輸入枠新設や関税の大幅引き下げなど譲歩をしました(表)。「五品目を交渉から除外し、段階的な関税撤廃も認めない」「聖域の確保を最優先。できない場合は脱退もある」とした国会決議に反します(一三年四月衆参農林水産委員会)。これを政府は「『例外なき関税撤廃』に例外を作った」と言い逃れています。
また五品目以外の野菜や果物の関税は完全撤廃、お茶や落花生、農産物全体で見ると八一%で関税撤廃を受け入れ。食料自給率はまた下がります。安倍内閣は「日本に農業は要らない」と宣言したのと同じです。
日本とアメリカの交換文書から推測すると、医療分野では、医療の営利化につながる内容に要注意です。
■今後の運動
今後の運動は―。大筋合意から正式な協定になるまでには時間がかかります。
協定は文書に各国がサインして結ばれます。一般の条約では、条文の公開はそのサイン後になります。ところが今回はアメリカで「サインには国会への通知と条文の事前公開が必要」という法律ができたため、「こんなものにサインはさせない」と運動できるようになりました。大統領選挙の有力候補もTPP反対を表明。オバマがサインにたどり着くか? 強行しても議会を通過するか? というハードルもあります。
交渉参加各国の市民による一斉行動も呼びかけられました。また欧州でも進行中の自由貿易協定反対運動ともつながっています。
日本でも二国間の交換文書が明らかになれば、国会で追及が可能です。また、日本国民が多国籍企業の食い物にされる問題とともに、日本企業が途上国を苦しめることになっていいか? という問題も心に留めて運動していきましょう。
(木下直子記者)
※TPP…人、モノ、金などの移動を自由にすべく関税撤廃と参加国の様々なルールを統一する貿易協定。従来と違うのは重要な生産物の関税まで原則撤廃するなどの点。企業が利益を侵害された場合、政府も訴えることができるISD条項など、多国籍企業に有利なしくみも。参加国は日本の他に米国、豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム
(民医連新聞 第1608号 2015年11月16日)
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