新専門医制度スタート(中) 私たちはどう向き合う? 民医連の医師養成 初期研修を重視しよう
新しい専門医制度について考えるシリーズ二回目は、民医連の初期研修について考えます。
〇四年に初期臨床研修制度が開始され、医師国家試験合格後二年以上の初期研修が必修となりました。同時に、半数以上の研修医が研修先に市中の臨床研修病院を選ぶようになりました。大学病院とのいわゆる“たすきがけ”を含めると七割以上が市中病院で初期研修を受けていると考えられます。
初期研修で何を学ぶか
ところが、一七年度から初期研修を修了した研修医を対象にした新専門医制度が予定され、将来専門医をとるためには、「初期研修から大学に残ったほうが良い」という働きかけが強まっています。
大学での初期研修を否定するわけではありません。しかし、ほとんどの研修医が受けることになるであろう三年目からの専門医研修では、より専門分野の症例に関する知識やスキル中心となり、内容が狭くなっていくことが予想されます。そのため、初期研修の二年間で基本的な診療能力(コアとなるコンピテンシー)を幅広く獲得できるかどうかが、ますます重要になってきます。
さらに一部では、初期研修を軽視し、〇四年以前の「ストレート研修」方式に近い研修を考えているところもあるようです。臨床研修の基本理念(※)を守る立場から注意しておく必要があります。
また専門医研修期間には、民医連外の施設で研修する場面も多くなるため、その前の初期研修の二年間で、健康の社会的決定要因(SDH)、健康格差、人権と健康権など「医療の社会性」をしっかり学ぶことは、専門医取得というキャリアアップだけではなく、一〇年後、二〇年後に医師が果たす役割を学ぶ機会として重要です。
研修内容の質の向上を
各研修病院は第三者評価を受けるなどして研修病院としての質を高めることが重要です。現在、NPO法人卒後臨床研修評価機構(JCEP)の認定を受けている民医連の臨床研修病院は四八病院中二八病院(五八・三%)で、さらにいくつかの病院が準備中です。なお日本全体では一〇二七病院中一七九病院(一七・四%)。
研修カリキュラムも、ただ各科をローテートして必要な症例を経験し、レポート提出するというものではなく、アウトカム基盤型のカリキュラムを検討するなど、初期研修充実のとりくみを強めましょう。全日本民医連の研修委員会では、米国のすすんだ研修制度を取り入れたマイルストーンを利用するとりくみを始めています。
実際の研修指導では、指導医だけではなく、指導者としての上級医やコメディカルの力量を高めることも重要です。しっかりとフィードバックを行いましょう。
全日本民医連としても、新しい指導医講習会の開催や研修に関する様々な工夫や経験を今まで以上に交流できる仕組みも検討していきたいと考えています。
尾形和泰(全日本民医連理事・医師研修委員長)
※臨床研修の基本理念
「臨床研修は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない」
(厚労省のホームページから)
(民医連新聞 第1607号 2015年11月2日)