第12回全日本民医連 学術・運動交流集会in大阪 平和、地域包括ケア、職員育成、国際、遺棄毒ガス 5つのセッション、多彩に
学術運動交流集会の二日目には、「戦争体験と平和運動をつなぐ」、「地域包括ケアの実践と探求」、「民医連らしい職員養成」、国際フォーラム「世界の新自由主義を乗り越えて」、「遺棄毒ガス兵器問題―戦後70年の視点」のテーマでセッションを行いました。
〈1〉戦争・被爆体験、平和の運動をつなぎ、受け継いでいく大切さを学ぶ
「高校生平和大使」の発案者・平野伸人さん(長崎県平和活動支援センター所長)と、第一八代高校生平和大使の柏原由季さん(大阪府立千里高校一年)が講演。
高校生平和大使は一九九八年のインドとパキスタンの核実験をきっかけに、被爆地の若者の声を世界に伝えようと始まりました。毎年スイスの国連本部を訪れ、核兵器廃絶を訴える署名を手渡し、軍縮会議参加国の代表に訴えます。
平野さんは活動の中で「高校生たちは核兵器廃絶という大きな目標に向かって努力するという使命感を獲得した。きっかけや目標があれば若者は力を出すことができると感じた」と話しました。
質疑応答では「署名の力とは?」との質問に、柏原さんが「署名の重さは思いの重さ。集まれば集まるほど良いのではなく、思いがつまっているほど良いと思う」。平野さんは「未来は変えられると信じてひとりひとりが行動することが大切。未来の平和をつくるのは、小さな、微力だけど無力じゃない人たち」とまとめました。
指定報告は、平和運動を担う若者を育てるとりくみ。「青年の平和活動~継続は力~」(東京ほくと医療生協・飯塚佐希子さん)、「京都民医連平和活動交流集会」(京都民医連事務局・日西千佳さん)、「事務管理部による『平和ガイド』の取り組み」(沖縄医療生協・具志堅徳和さん)でした。
〈2〉無差別平等の地域包括ケアの実践と探求
全日本民医連の野田浩夫副会長が基調報告。「孤独死を当然視し、ケアを市場化しようとする政府の地域包括ケアは憲法違反だ」と批判。「人権を土台とした地域包括ケア」を築くことが民医連の最優先課題だと強調しました。
東京・白十字訪問看護ステーション統括所長の秋山正子さんが学習講演しました。秋山さんは高齢化率五〇%超の都営団地を擁する地域で訪問看護をしています。「治すことに専念する医療から、病気や障害を持っても生き生きと暮らし、穏やかに人生を終えるところまでささえる医療へ」の転換を掲げ、地域のNPOや団体、家族を看取った住民などの協力も得て「暮らしの保健室」を立ち上げた経験を報告しました。
実践報告は三人から。「地域と共に支える認知症の取り組み」(田中清貴さん、福岡・みさき病院医師)、「在宅での看取りが増えてくる中での問題や課題について」(佐々木広子さん、山口・虹の訪問看護ステーション看護師)、「地域包括ケア病棟の実践『在宅を支える機能を持った病棟』の実践と今日の課題」(伊原多美子さん、大阪・西淀病院看護師)。質問が相次ぐ内容でした。
北海道・老健かたくりの郷の富居俊也さん(理学療法士)は、「福岡の報告は地域も似ていて参考になりました。介護保険改悪で要支援の人が通所リハに来られなくなるなど、現場で起こっていることにリハ職員に何ができるか、模索したい」と話していました。
〈3〉新しい時代を切り開き、健康実現を担う民医連らしい職員育成をどうすすめるか
法政大学教授・教育科学研究会委員長の佐貫浩先生が「新自由主義の社会破壊に立ち向かい人間の正義を回復する―日本国憲法の正義を継承し、人間として生きる意味を取り戻すために―」というテーマで学習講演。グローバル社会の推進で人々の生活が破壊されていると指摘し、「全ての人間が平等で自由に声をあげられる本当の民主主義が必要」と話しました。
指定報告は「民医連の医療・介護活動や運動を通して自分が成長した経験」のテーマで三人が報告。前橋協立病院の宇敷萌医師は「研修を通して学んだチームの力」と題し、初期研修中に感じた多職種連携について「患者の生活をささえるためには、あらゆる職種の力が必要」と、“チームの力”の重要性を話しました。城北病院の鈴木千尋看護師は、奨学生時代から師長になった現在までを振り返り、それぞれの場面での成長を語りました。大阪民医連の曽木博史介護福祉士は、介護ウエーブや国会要請行動への参加から、社会に訴え、政治に働きかける経験を話しました。三人一組で議論するトリオセッションも行い、職員育成について自身の職場での経験や悩みなどを交流しました。
齋藤和則全日本民医連理事が「患者、利用者の声に寄り添い、職員に働きかけ、いっしょに成長できる組織に」とまとめました。
〈4〉国際フォーラム「平和と健康権、世界の新自由主義を乗り越えて」
民医連と交流があるフランス、韓国の医療団体から六人の医師が参加し議論しました。藤末衛会長が基調講演の冒頭に「社会保障は何のために、誰のためにあるのか、医療改革に対抗する国際連帯が大きなテーマ」と述べ、両国の状況を説明。第二次世界大戦後、労働者の運動で高水準の社会保障制度を保ってきたフランスも、日本と似た制度の韓国でも給付削減や営利産業化が進行中です。
フランスの保健センター養成および医療実践評価全国連盟会長のミシェル・リムーザン医師は「人類が生む富も科学水準も高まり、世界にもっと希望があっていいはずだが、格差は拡大し、多くの人が社会的排除を経験している。フランス国民の二六%が経済的理由で医療を諦める」と報告。運動の優先課題は「新自由主義に希望を奪われた青年らに、たたかえば希望があると示すこと。そして、足元のたたかいを忘れないこと」と語りました。
韓国・保健医療団体連合政策委員長のウ・ソッキュン医師は、米韓FTAに抵した国民的運動を中心に報告。主要な社会運動との共闘を重視し「健康保険の黒字を国民に」と運動し、その中で後継者も生まれていると報告。韓国でのMERS蔓延の原因が医療の営利化にあったことも紹介しました。
後半はフロアも交えて討論。長野の和田浩医師が子どもの貧困について報告しました。
山梨の長幡安也子さん(事務)は「参加して良かった。社会の中での民医連の役割を医学生にどう語るかを学ぼうと来ました。新自由主義の犠牲は日本だけでない。【連帯】は世界に共通したキーワードですね」と語っていました。
〈5〉遺棄毒ガス兵器被害の問題を考える―戦後70年の視点―
全日本民医連副会長の吉中丈志医師が「戦争と医学―評議員会の特別決議の理解を深めるために」をテーマに、第二次世界大戦中に日本軍が中国ハルビンに設置した731部隊について講演しました。部隊は細菌、毒ガス兵器などの開発のため、中国人を捕らえて「マルタ」と呼び、生きたまま解剖したり毒ガスを吸わせるなど、人道的に許されない人体実験を行いました。吉中医師は「参加した医師たちは惨殺に加担したことになり、敗戦で旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器が、現在中国人に重大な健康被害を及ぼす事件につながっている」と説明しました。
七年間、六回にわたってチチハルに検診に赴いた三人の職員も報告しました。内科的特徴は東京の藤井正實医師、神経内科的特徴は大阪の橘田亜由美医師、神経心理学的特徴は徳島健生病院の三阪ナナ作業療法士がそれぞれ報告。民医連の医師たちは遺棄毒ガスの後遺症を「チチハル症候群」と名付け、経過と症状をまとめました。
中国人戦争被害者の代理人として日本の裁判所で戦争被害賠償請求の訴訟事件を担っている南典男弁護士も報告しました。
また、化学兵器禁止機関本部(OPCW/オランダ・ハーグ)での会議に招かれた京都の磯野理医師の報告も。磯野医師はチチハル検診にも参加しています。
会場からは、「日本の加害を知る機会になった」など感想が出されていました。
(民医連新聞 第1607号 2015年11月2日)