相談室日誌 連載401 初めて国保法44条の申請にかかわって(島根)
五〇代のAさんは脳出血を発症し、急性期病院で加療後、当院の回復期リハ病棟へ転院した男性です。後遺症は重度の左片麻痺、注意障害などの高次脳機能障害で、リハビリで今後どこまで回復するのかが課題でした。妻と二人暮らしですが、妻は病気療養中で働けず、生活は本人の自営業収入が頼りだったため、転院後すぐに医療費・生活費の相談に関わるようになりました。市に生活保護申請を相談しましたが、住宅ローンがネックで、結局、利用できるのは市社協独自の貸付制度のみ…ということに。
国保法四四条は、災害等により生活困難状態に陥った際、医療費の一部負担金や保険料の減免を受ける制度です。筆者は、制度こそ知っていましたが、実際、患者さんに使ってもらった経験はありませんでした。「Aさんには、当面この制度しかない」と、妻と共に国保窓口へ。当該自治体がこの申請を受理するのは数年前に一件あって以来で、担当者もかなり戸惑っていました。しかし、Aさんの状況を粘り強く説明し、なんとか受理へ。三カ月間に限ってですが、医療費一部負担と保険料が免除されました。
Aさんの妻は生活が苦しい中でも「夫といる方が安心できる」と、毎日のように面会に訪れ、本人を励ましながら介護方法も学びました。「自分で問題を解決しなければ」という思いも強く持っていたので、相談員が後押しすることで、手続きをすすめることができました。
自宅介護という新たなストレスにさらされる妻が、病気を悪化させる可能性もありましたが、経済的な問題もあり、退院後は施設入所ではなく、自宅療養の方向で調整しました。退院前に障害年金は申請できましたが、生活保護は住宅ローンの問題が解決せず、申請できないままです。
当院では無料低額診療事業も行っておらず、四四条や生活保護の申請に関わる機会も少ないのが実際ですが、「対象者がいない」のでなく、知らないだけで必要としている方はもっといるのです。知られていない制度でも、社会保障制度として積極活用していくことが大切だと感じています。
(民医連新聞 第1607号 2015年11月2日)