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民医連新聞

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里子・里親 文・朝比奈 土平 (14)カヤックの上で

 繁華街の公園の脇を通ると、「きょうはせんそうはんたいはないと?」というので「次はねえ」と日程を伝えた。四歳児に詰められた。
 八月、お母ちゃんの夏休みの前半に、山口県の祝島を訪ねた。中国電力が上関原発を計画していて、予定地の浜の真西の対岸にある祝島の住民が三〇年間「原発ができたら朝日と一緒に拝むことになる」と反対している。夏は鱧(はも)、冬は河(ふ)豚(ぐ)が名物の豊かな海。看板のない万屋さんの棚の塩ウニ瓶とカップ麺の間に「祝島のたたかい」という本が置いてある島。
 徳山から祝島に行く途中の漁村に「ダイドック・オーシャンカヤックス」がある。代表者の原康司さんは、中国電力からスラップ訴訟の被告にされている四人のうちの一人。原さんの指導で初体験したシーカヤックのタンデム艇で、アキラは気持ち良さそうにグーグー眠っていた。
 九月に再訪した時には、ベタ凪の海面が表面張力みたいにこんもり盛り上がっているようで、「丸い地球の水平線に 何かがきっと待っている」と井上ひさしの歌詞(ひょっこりひょうたん島)が鼻歌に出た。
 原さんはイヌイットとアザラシ漁に出たことがある。彼が行くと必ず海霧が出るので、「お前はダイドック(現地語の「海霧」の意)だ」とあだ名を付けられたと聞いた。
 世界最小(一五〇~一八〇センチ)のクジラであるスナメリが、推定七六〇〇頭住み、大小多くの島が自然の海岸を残す瀬戸内海。残された奇跡の海を守りたいと、彼は工事作業船への海上阻止行動カヤック船団のリーダーになった。辺野古にも知人がたくさんいるという。
 アキラとたくさんの自然を経験したいとえっちらおっちらカヤックを漕いでいると、国会議事堂正門前の人の波と、手の届くカヤック舷側の波とが重なる。漕ぐのをやめたら潮に流されるだけだ。ときどき手を休めて漂うことはあるにせよ。
 スーパームーンの前日で、大きな月が瀬戸内の島の山の端にベカッと光った。陽焼けしそうな強い月明かりを見ながら、「苦しいこともあるだろさ 悲しいこともあるだろさ だけどぼくらはくじけない 泣くのはいやだ 笑っちゃおう すすめ」という五〇年も前の歌に、こんなにクッキリ共感する不思議を思った。

(民医連新聞 第1606号 2015年10月19日)

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