憲法なう。 緊急番外編 9条を死文化させ国家の「土台」まで転覆
戦争法強行採決を「あすわか」が解説
今号の「憲法なう。」は緊急番外編。安倍自公政権は「戦争法」を強行採決・成立させました。この法律と安倍政権の問題点について、本紙連載中の「明日の自由を守る若手弁護士の会」黒澤いつきさんの寄稿です。
二〇一五年九月一九日未明、安保関連法案が参議院本会議で可決成立しました。戦後デモクラシー七〇年の歩みを破壊する歴史的な暴挙の瞬間、どんなに多くの人が怒りで身体を震わせたことでしょう。今回は、ついに成立してしまった「戦争法」の中身と可決までの道のり、両方の問題点を、改めて解説します。
■アメリカの戦争を下請け
戦争法の一つ目の特徴は、集団的自衛権を行使できる点です。集団的自衛権とは、「攻撃されたから反撃する」というごく普通の自衛権とは異なり、同盟国がA国に攻撃されたから同盟国に加勢してA国と戦争をする、というものです。
日本が他国の戦争に首を突っ込み、戦争当事国となることなど、戦争放棄を宣言する日本国憲法九条が許すはずがありません。ところが安倍政権は昨年七月、「憲法九条は集団的自衛権を認めている」と言って、従来の憲法解釈を変更する閣議決定をし、今回の戦争法によって具体化しました。
政府与党は、「厳しい三要件が歯止めとなっている」と繰り返し反論しますが、その三要件はどれも非常にあいまいなもの。その気になればいくらでも恣意的な判断ができてしまうのです。おまけに国会の事前承認は必ずしも必要ではないので、国会は歯止めになりません。
そもそも特定秘密保護法により、ほとんどの軍事機密が特定秘密に指定されて明らかにされませんから、政府がどんな情報を土台に参戦を判断したのか、知ることもできません。
二つ目の問題は、後方支援です。戦闘地域で、他国の軍隊に対し、離陸直前の戦闘機への給油、武器・弾薬の輸送、そして弾薬の提供をすることになります。政府はこれら後方支援は「武力行使ではない」と言いますが、後方支援があるからこそ戦争ができ、なければ戦争は続けられません。後方支援が武力行使と一体不可分の関係にあることは、軍事の常識です。
三つ目に、平時から外国軍隊の「武器等防護」をすることになります。一緒に軍事演習などをしている他国の艦船や戦闘機を守るために、自衛隊が武力行使するのです。もちろん、これがきっかけで戦争が始まる可能性があります。
このように、この法律は、「平和安全法制」などとは名ばかりの、まさしく「戦争法」なのです。
■立憲主義・民主主義否定
圧倒的多数の憲法学者、元最高裁判所裁判官、元内閣法制局長官など、この国の憲法のエキスパートのほぼ全員が、「戦争法案は憲法違反だ」と断じました。それを最後まで無視した政府は、国を治める理性も知性も不要だと宣言したも同然です。
さらに国民と国会を無視しました。「政治に無関心」と言われてきた若者や子育て中のママたちが全国各地で立ち上がり、かつてない広くぶ厚い連帯が国会を包囲したにもかかわらず、政府や与党は議論を避け、不誠実な議事運営を繰り返しました。あげくの果てに、特別委員会では混乱と喧噪で議事録にも残されていないのに、採決がされたことになりました。こんなことが許されるなら、国会は無きに等しい。手続きは明らかに無効です。
■違憲で無効な法律だ
このように、中身が憲法違反であるばかりか、手続き的にも無効な法案が可決成立してしまいました。全国民の代表として憲法尊重擁護義務を負う国会議員が、こんな暴力的な政治をするなどありえません。
「国民は憲法で権力をしばり、政府も国会議員も憲法の範囲内で権力を行使する」、これが立憲主義です。政府と与党は自分たちの欲望を最優先に、憲法を無視しました。法律の観点からはクーデターに等しく、日本が近代民主主義国家から脱する重大な一歩を踏み出したことになります。
戦争法成立は憲法九条を死文化させるだけでなく、立憲主義・民主主義という、国家の土台までをも転覆させてしまうもの。その行く先は、自由も人権もない好戦的な専制国家です。私たちは、子どもの自由で豊かな未来を守るために、なんとしてもこの法律を廃止させ、憲法を深く理解した政治家による政治を実現させなければなりません。
戦争法の成立後の各社の緊急世論調査
内閣支持率
■読売新聞
支 持 41%
不支持 51%
■毎日新聞
支 持 35%
不支持 50%
■朝日新聞
支 持 35%
不支持 45%
■共同通信
支 持 38.9%
不支持 50.2%
■JNN
支 持 46.3%
不支持 52.5%
■産経・FNN合同世論調査
支 持 42.6%
不支持 47.8%
(民医連新聞 第1605号 2015年10月5日)