相談室日誌 連載398 無低診を使いつつ 必要な社会資源に― (静岡)
Aさん(五〇代・男性)との出会いは、医師からの介入依頼でした。「糖尿病の血糖コントロールのために入院加療が望ましいが、入院費を案じている」と。
入院せずに外来通院になった場合も、インシュリン代の負担の重さを考えると、治療を中断される可能性が高いと判断し、面談しました。Aさんは「自営業だが体調が悪くなって働けず、無収入。国保料も滞納した。自分の保険がいまどうなっているか分からない」と語りました。当院の医療費については、無料低額診療(以下、無低診)の利用を視野に入れ、状況を調べました。役場に確認すると、国保料の未納が二年程度。さらに本人の話から、住宅や自動車、カードローンなど多額の借金が判明。
国保課に相談すると、正規の保険証が発行されました。また、医療費だけでは問題が解決しないため、生活保護課にも相談しました。しかし、申請は窓口で見送りに。
Aさんは「持ち家だからダメだといわれた。車も手放さないといけない。仕事に復帰できれば車は必要だし、家を出るなら置いてある仕事道具も処分しなくてはいけない。だから今は生活保護の申請をしたくない」と理由を説明しました。本人は、仕事への意欲も強くあり、生活保護の利用は、ゆっくり検討することにして、まずは、無低診を使いつつ入院して治療することに。
入院中に面談を重ねるうちに、Aさんは借金の整理と家の売却を決意しました。退院後、外来を受診された際にAさんと面談すると、私たちが紹介した弁護士と相談しながら借金の整理を始め、生活保護の申請をするつもりだと話してくれました。その後、整理も終え、生活保護開始となりました。
生活保護の申請がスムーズにいかなかったケースではありますが、国保課の柔軟な対応に助けられ、弁護士に親身に相談に乗ってもらい、Aさんも喜んでいました。「本人の自立を支援する」「必要な社会資源につなげる」という、無低診の本来のあるべき運用ができたケースだったと思います。
(民医連新聞 第1604号 2015年9月21日)