新専門医制度 課題は? ひとりひとりが民医連を語ろう
山田秀樹 全日本民医連医師部副部長 に聞く
今後の医療や医師養成のあり方に大きく影響する「新専門医制度」が二〇一七年からスタートします。そもそもこの制度とは? 現場に求められることは? 全日本民医連理事で医師部の山田秀樹副部長(東京・立川相互病院)が語りました。
―新専門医制度が二〇一七年にスタートしますね。
これまでに、ほぼすべての専門科のプログラム整備基準が示されました。年度末の締切に向け、各事業所で急いでプログラム作りをしているところです。
―そもそも、この制度を導入しようとする国の狙いは?
専門医制度のあり方は医師の資格の話にとどまらない、日本の医療のあり方そのものに大きな影響を与える問題です。新自由主義的な医療改革の二本柱=医療機能の再編と、その受け皿としての地域包括ケアを推進する医師体制作りを、国の統制で行うことに狙いがあります。
政府は医療機能を再編し、高度急性期医療や専門医療を集約することを突破口に、医療の産業化や混合診療の解禁などを行い、医療をもうけの手段とするアベノミクス成長戦略に組み込もうとしています。総合診療以外は、専門医養成も大学や大規模病院中心に集約されるので、資格を取り、維持するために医師は都市部に集中します。そうなると、今でも問題になっている医師の偏在はさらに強まり、地方の中小病院に医師が来なくなり、地域医療崩壊の加速にもつながることが懸念されています。
あわせて、民医連の事業所に限らず、医師の確保と養成は事業所の医療構想の実現や経営に直結しますから、この制度で、それが大きな岐路に立つ、という問題でもあります。
■地域のニーズに合わせて■
―現在進行中の医療機能の再編とのかかわりはどうでしょう。
都道府県が策定する「地域医療構想」がすすめられる中、医療機能再編の波が本格化し、事業所でも医療機能を見直すことになります。急性期病床の転換が迫られる中では、地域包括ケア病床の確保も含めて、自分たちが地域でどのような役割を発揮するのか、ポジショニングと地域連携の見定めが必要です。
民医連の医師はこれまでも事業所のポジショニングのもとに、総合性の上に一定の専門性を持ち、医療活動にあたってきました。今回、ポジショニングの変化に伴い、働き方にも新たな展開が必要になるかもしれません。地域のニーズに合わせて、自らのあり方を変化させることができるのか、その真価が問われることになると思います。
また、これまで以上に研修医教育に力を割く必要があります。事業所の枠を超えたオール民医連での研修体制、そのために医師配置を行うなど、新たな挑戦も必要になるでしょう。医局で議論を積み重ねることが重要です。
■制度改善に向けて「見解」使おう■
―全日本民医連は、新専門医制度への見解を発表しましたね。
一月に出した「見解」は、日本専門医機構や医療団体、学会をはじめ病院等に送りました。これを持って地元の病院を訪問した県連もあります。意見も寄せられ、制度の背景と地域医療崩壊の危険性の指摘には賛同の声が多いです。
日本専門医機構は、プログラム基準の公表にあたり、「地域医療の崩壊に結び付くものであってはならない」と必ず述べるようになりました。民医連の働きかけが影響を与えたとみられます。これは大きな成果です。
引き続き、プログラムでの連携申し入れなど地域の病院との懇談に、民医連の見解を活用しましょう。それが制度改善に結びつきます。
■事務局体制の確立を■
―専門医の研修制度はどう変わりますか?
新制度には、「日本専門医機構」をつくり、未統一だった専門医の認定要件を標準化したり、今後、役割が期待される総合診療医を専門医に位置づけるなど、改善をめざす要素もあります。
一方、研修プログラムは、基幹施設が複数の病院を連携施設として組みこみ、ローテート研修する仕組みになります。基幹施設についてはこの間、基準のハードルを上げ、施設数を絞り込むなど、私たちが予想した以上に厳しい方針が出されました。この制度を利用し、市中病院へ流れた初期研修医を取り戻そうする大学や学会の意向が反映していると思います。
民医連事業所も、総合診療科と内科以外は、多くが「連携施設」として他院のプログラムに組み込まれます。民医連の研修医も、一定期間は外の病院に出て研修せざるを得なくなります。
総合診療と内科分野については基幹施設になることを目指し、民医連らしい活動を組み込んで差別化を図るとともに、良質な教育を重視することが必要です。
内科分野では、基幹型の要件に「原則三〇〇床」という基準が設けられました。プログラム評価には訪問審査もあります。三〇〇床以下の基幹施設は、教育の質の高さを示していくことが重要です。
なお、精神科領域では民医連でもいくつかの病院が基幹施設を目指して準備しています。
基幹施設を目指す事業所は事務局体制の確立が急がれます。初期研修以上に膨大な事務作業量や研修記録の管理が必要になります。外部研修中の処遇など新たな課題の整備も急務です。事務幹部が責任をもってとりくみましょう。
■大切なことは■
―医師研修には直接関わらない職員もいますが、職員としてどう向き合えばいいですか?
職員一人ひとりが、医師の確保と養成を改めて自分の役割として考えていく機会にすることです。
患者と接し、その思いを知る職員一人ひとりが、現場の中で、自分の言葉で、医学生や研修医に、民医連を語ることが重要です。
後期研修で民医連外での研修を選択することになる場合であっても、初期研修の段階で、「将来この地域、この事業所で働く」と研修医に決意してもらえるかどうかがカギです。地域を見て活動できる医師を養成するために、ヘルスプロモーション活動への参加やチーム医療の強化、共同組織とのかかわりなど、日常活動と研修を一体化し、民医連医療の価値や社会的役割へ共感を広げましょう。
特に研修に多くの時間を費やす病棟では、これまで以上に人権やSDH(健康の社会的阻害要因)の視点を高め、地域へ目を向けたカンファレンスやチーム医療推進など、看護集団をはじめとする多職種の力を、共に成長する視点で発揮してほしいと思います。
組織的には新制度への対応に終始しないこと。専門医が強調される中、大学では初期研修が軽視される風潮も強まっています。初期研修の意味を深め充実させ、医学生対策を飛躍させること。民医連が「自前の医師養成」にこだわってきた原点は「医療活動」と「運動の担い手作り」ですから、この視点を見失わないことです。
※一〇月一九日付から、医師問題について三回連載します。
〈○○科の専門医をめざすEさんは、どのように研修を受けるか〉
基幹施設A病院の◯◯科専門研修プログラムに入り、修了に必要な約3年の研修期間のうち、少なくとも6カ月以上を同院で過ごす。民医連のB病院はじめC病院、D病院などもローテートしながら専門医の取得に必要な研修を行う。
※Eさんに民医連で働く意思があっても、プログラムによっては、ほとんどの期間を民医連外の病院に勤務する場合もある。
(民医連新聞 第1604号 2015年9月21日)