「改悪」現場から問う 特養の入所制限 「終の住処」になり得ない状況が発生し…
今回は、今年度から特別養護老人ホームへの新規入所が「原則、要介護3以上」と限定された問題についてとりあげます。
見直し内容と待機者の実態
見直しは、医療・介護総合確保推進法に基づくもの。厚労省の調査では、特養の入所を希望して在宅や病院・施設などで生活している「待機者」は全国で五二万一六八八人(二〇一三年一〇月一日時点。都道府県が把握した入所申し込みから)。うち要介護1~2は一七万七五二六人。一八万人近くが閉め出し対象になったのです。
法案の審議段階で出た強い批判に国は、いずれかに該当すれば、要介護1、2でも例外的に申請できる要件※を設けました。
(※認知症、知的・精神障害等で日常生活に支障あり/深刻な虐待の疑い/単身世帯か同居家族が高齢や病気で介護できず、かつ地域の介護サービスや生活支援の供給が不十分)
「要介護2でも特養への入所が必要な人はいます。妻の認知症が重く、夫が手をあげてしまうという老老世帯の相談がありましたが、この方も要介護2でした。ささえる手の有無、経済状況や地域環境…人が生きるには様々な要素が必要ですから、介護度だけを判断基準にするのは違います」。こう話すのは、東京民医連に加盟する特養・葛飾やすらぎの郷の新井敦子施設長。今年四月以降も、やすらぎの郷には、要介護2の入所申請が二五件ありました。例外の要件に該当した人たちです。一般の入所申請総数一二七件の約二割。「要介護3以上」に入所を制限することが実態に即していないと、みてとれます。
「『特養は要介護3以上』という情報が刷りこまれていますから、緩和条件があると知らず申請を諦めた人もいるはず」と新井さん。施設は八四床で、入居者の入れ替わりは年間で二〇人ほどです。介護の受け皿が圧倒的に足りません。
要介護3でも入れない?!
気になることを聞きました。地域の施設の集まりで「入居者がいない」という声が出るそうです。
入所の順番を待つ余裕がない待機者がサービス付き高齢者住宅などの他施設に入ったり、順番が来たものの、利用料を確認して辞退する場合もあります。しかし、報酬改定で特養側が「入所者を選ぶ」傾向がこれまで以上に強まったことも影響している、と新井さん。「『入居希望者がいない』のではないのです」。
例えば、「新規入所者総数のうち、要介護4、5を七〇%以上、または認知症の自立度III以上の人を六五%以上にする」といった要件の加算があります。この加算を取ろうとすれば、要介護2はおろか、3の人を受け入れることさえ難しくなる、といった具合です。
一方、介護度が重く手のかかる入居者が増えると、ケアする側の体制がとれません。そこで、入院期間が一カ月を超えると退所するルールにしたり、誤嚥性肺炎を繰り返す入居者に退所をすすめる施設も出ています。
「『終の住処』であるはずの特養がそうなり得ない状況です。国の基準では現場がまわらないことも痛感していますから、そうした施設を責める気にはなれません。ただ、特養を出された高齢者はどこに行くのでしょう」と新井さん。
増え続ける特養待機者に対し、施設を増やすのではなく、入所対象者の定義を変えるごまかしの政策が、矛盾を大きくしています。(木下直子記者)
《待機者》内訳は、在宅二五万七九三四人、病院などの施設二六万三七五四人。都道府県別では、東京が最多で四万三三八四人、続いて宮城(三万八八八五人)、神奈川(二万八五三六人)、兵庫(二万八〇四四人)
(民医連新聞 第1604号 2015年9月21日)
- 記事関連ワード
- 介護