戦争反対 いのち守る現場から 日本社会医学会 山田裕一理事長 戦争は最悪の健康阻害要因 法案阻止は「予防」です
医学会からも戦争法案反対の声があがりました。日本社会医学会が学会総会で特別決議をあげました。「戦争は最大で最悪の社会的健康阻害要因」と指摘し、法案反対を表明しました。同学会理事長の山田裕一さんに聞きました。(土屋結記者)
学会で戦争法反対決議
特別決議「日本社会医学会は、最大最悪の社会的健康阻害要因である戦争につながる戦争法案(安全保障関連法案)に反対する」は会員からの提案でした。私も法案に対して、どう動こうか、と考えていた時でした。学会のホームページに案文をのせて会員に周知し、七月二五~二六日に行った総会で議決しました。
日本社会医学会は、国民の健康と生活の問題や社会の関わりを解明し、社会的な予防対策を議論しています。僻地医療、難病患者、高齢者・障害者、公害、薬害、職業病など、研究テーマはさまざまです。七三一部隊のような医学・医療の戦争犯罪などについて、研究している会員もいます。
一九六〇年に創設された社会医学研究会が前身です。日本公衆衛生学会の研究者の中で、「健康の社会的決定要因」について目を向けようと設立しました。九九年に今の学会名に改称しました。SDH(健康の社会的決定要因)は今でこそ広く使われている言葉ですが、それを五五年も前から取り上げてきました。
なぜ法案に反対するか
そういう私たちの立場からは、戦争は最大で最悪の社会的健康阻害要因というしかない。戦争の死者は直接的な戦闘よりも病死などの方が多いのです。例えば第二次大戦でも日本軍の兵士は、脚気や栄養失調、熱帯の感染症などで亡くなっています。また、空襲などで非戦闘員の女性や子ども、弱い人たちが犠牲になります。
この考え方は私たちの学会の精神です。ですから、学会員たちが戦争法案を問題として捉えたのだと思います。
科学者は政治的中立の立場をとることが多く、政治問題に意見表明を行う学会は多くないでしょう。しかし、戦争反対は政治的中立かどうかの問題ではなくて、原子爆弾に反対するのと同じく、いのちや暮らしを守ることです。戦争法案に反対するのは医学者の使命でしょう。この問題に反応を示さないということは、かつての戦争に日本の医療者たちが協力してしまったのと、それほど遠い話ではないと思います。
始まってからでは遅い
かつて、医学・医療は傷ついた戦士の手当てが役割の一つでした。
ところが、第一次、二次大戦頃から、医師や医療が戦争遂行に全力で協力させられるようになりました。まさに総力戦を求められ、細菌兵器や化学兵器の開発・研究などに医学が関わりました。南方戦線ではマラリアなど感染症対策が重要で、その研究に日本軍は医療者を動員しました。
戦争は医学・医療抜きではできません。いちど戦争が始まれば、前線に動員されるとともに、研究面での協力も強いられる立場に、私たちはあるのです。
現代も、中近東の気候で熱中症をどう予防するかといった研究が要請されるでしょう。特定の分野にカネをばらまき、医学を誘導していくことは十分に考えられます。
平時でも、「医学研究」という名前を借りて、戦争や軍事のためにうっかり協力してしまっていることはありえます。人を殺したり傷つけたりすることに、医療が絶対に使われないよう常に意識していないと、知らないうちに巻き込まれてしまいます。
戦争が一度始まってしまえば、国民の健康などはそっちのけで、軍事が優先されるのは明らかです。抵抗するのは難しいでしょう。いま戦争法案に反対し、「予防」しないといけません。
※特別決議の全文は、日本社会医学会のホームページで公開されています。
やまだ・ゆういち 1949年生まれ。1975年金沢大学卒、2015年3月まで金沢医科大学教授(衛生学)。08年に、名古屋大学の宮尾克教授らとともに、広島の低線量被爆者を研究し、初期被爆線量が5mSv未満と推定される被爆者のがんによる死亡が、一般人に比べて多いことを発表しました。
(民医連新聞 第1602号 2015年8月17日)
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