「改悪」現場から問う 補足給付の厳格化 特養での低所得者支援を縮小 「資産調査」強める
社会保障改悪が、医療や介護の現場にどう影響しているか。八月から、特別養護老人ホーム入居者向け負担軽減策の要件が厳しくなります。昨春に成立した「医療介護総合確保推進法」による見直しです。実施を前に行なわれている利用者の資産調査でも問題が報告されています。(木下直子記者)
「補足給付」は、特養ホームなどに入居する低所得者向けの制度です。食費や居住費は介護保険の給付外で実費負担ですが、低所得の利用者が申請すればこの補足給付が介護保険から出て、負担が軽減されます。
これまでは住民税非課税の世帯であれば認められました。八月からは、預貯金などの「資産」や配偶者の収入も判定材料に加えられます(表)。対象者をふるいにかけ、絞り込む改悪です。
▼預貯金が単身で一〇〇〇万円超、夫婦世帯で二〇〇〇万円超の場合▼本人が非課税でも、配偶者(世帯分離していても)が住民税が課税なら、補足給付の対象外。また、遺族年金や障害年金などの非課税年金も収入に勘案します。
どんな影響が出るのか―
二カ所の特養ホームを運営する石川・やすらぎ福祉会が、実際の利用者で試算した「酷書」には、次のような報告がされています。
■年金月五〇〇〇円、老健施設に入所中の夫と世帯分離して補足給付を受けていた八〇代女性…夫が課税のため補足給付の対象外に。利用料が月六万三〇〇〇円から約一三万円に。年八〇万円の負担増。夫の利用料(一〇万円)との合計が、二〇万円の年金を超える
■障害年金を受給する七〇代の男性…非課税の障害年金が収入にみなされると負担限度額が一段階上がり、月約八〇〇〇円の負担増。ギリギリだった妻の生活に打撃。妻には持病があり自宅介護は困難
低所得者ほど補助が縮小される影響は大きいのです。しかも、給付を外されて入居が続けられなくなった人の救済策はありません。
申請のハードル
八月を前に、補足給付の申請手続きの問題も出ています。申請時点で、負担軽減制度から閉め出されるおそれがあるのです。全日本民医連が六月に行った厚生労働省への要請でも、ケアマネジャーや施設職員が指摘しました。
申請には利用者と配偶者の通帳の写しや金融機関に対する残高照会承諾書を添えることが要件。配偶者の承諾書まで提出させるなど、生活保護でもやりません。
自治体には、制度変更の通知を利用者に郵送し、説明や申請実務を事業所に丸投げしているところも。事業所には役所から届いた書類を持ち「これは何?」と家族がやって来ます。問い合わせが多く説明会を開くことにした施設も。
ケアマネは、利用者から通帳を預かることに抵抗があります。「こうした制度変更に乗じた詐欺も発生しかねない」と懸念します。
預貯金などの重要な情報を第三者に託すことをためらう利用者も。そのまま申請を逃すと、補足給付が受けられる所得でも食費・居住費は全額自己負担です。
■厚労省は一三日、申請書類が揃わなくても支給決定するなどの対応改善を自治体に通知しました。
(民医連新聞 第1600号 2015年7月20日)