フォーカス 私たちの実践 リハビリテーションの力 山梨・石和共立病院 覚醒していれば食べられる―― 胃ろうを作らず退院へ
胃ろうを造設し退院する予定だった入院患者にリハビリテーション(以下リハビリ)を行い、胃ろうを造設せず退院できたケース報告が第一二回看護介護活動研究交流集会でありました。患者の覚醒状態と経口摂取の関連に着目。山梨・石和共立病院の脳卒中リハビリテーション看護認定看護師・前嶋瑞枝さんの報告です。
患者は、急性心不全で入院した八〇代男性のAさんです。心不全は改善したものの、慢性硬膜下血腫と認知症が進行、起きている時間が不安定で、その間も意識ははっきりしていませんでした。覚醒状態が悪い時は誤嚥(ごえん)の危険があり、食事はできません。そのため、Aさんは食べられず、胃ろうをつくって退院する予定でした。
当初、Aさんは食べ物が認知できず、口に含んでも唇や下あごが閉じられない、喉頭が持ち上がる反射も遅れている状態でした。しかし、覚醒状態が良い時はそうした嚥下機能が改善され、少量ですが食べることができました。そこで前嶋さんたちは「覚醒状態が安定し食事の時間に起きていられれば、胃ろうを作らなくてもいいのでは」と考えました。
「起きるため」のリハビリ
「デイルームで自力で食事をとれるようになる」という長期目標を設定しました。まずは「食事の前に覚醒できる」ことを目標にリハビリを行いました。
食事の時にはっきりと起きているためには、食事時間より前に脳が活性化していなければなりません。既存の研究では、「仰臥位から座位への姿勢変化の際に、ベッドの角度を三〇度よりも八〇度にする方が、脳が活性化する範囲が広く、また、座位になってから一〇~一五分後が最も脳が活性化される」とされています。
このことから、食事の一五分前にベッドの角度を八〇度に設定。嚥下機能はまだ改善していなかったので、言語聴覚士のアドバイスで、食事する時はベッドの角度を誤嚥しにくい三〇度にして介助することにしました。
さらに、食前に行うこととして、口腔内を清潔に保つマウスケア、開口反射や嚥下反射を促すためのKポイント(図)を刺激。そして、食べ物を認知してもらうために、Aさんが好きなコーヒーを家族に用意してもらい、とろみをつけて飲んでもらいました。
リハビリ開始後、次第に意識レベルが改善し、数日はゼリーととろみ茶だったメニューが、一〇日目になるとすり粥とペースト食、一八日目には全粥・ソフト食にできるほど嚥下機能が回復。自力で食事がとれるようになりました。結果、胃ろうを作らず退院することができました。
食べることで好循環に
リハビリテーションとは「人間として生きていく権利の回復」、リハビリテーション看護とは「生活援助の方法を通じて日常生活動作を獲得させ、生活の質の向上を目指していくこと」です。(『私の看護ノート』紙屋克子著)
覚醒していないから食べさせずにいると、患者の意識レベルはさらに低下し、脳の働きまで低下します。覚醒を促すリハビリで、患者は少しずつ食べられるようになり、食事で脳が刺激され、意識がさらに覚醒し、高次脳機能を活性化させるという好循環を生み出しました。
しかし、退院まですべてがスムーズにいったわけではありません。Aさんは一日中デイルームで過ごすうち、食事量が減ることもありました。長く寝ていたために体力が低下し、高齢もあり疲れやすくなっていたことが原因とみられます。「入院前も、長時間起こしていると食べなくなったことがある」と、家族から情報がありました。患者の様子をよく観察し、リハビリと休憩をバランス良くとる必要性も再認識しました。
リハビリとチーム医療は切っても切れない関係にあります。患者が日常生活動作を獲得、改善していくためには、食事介助やリハビリで日頃から関わっている看護師やセラピストが連携し、統一した援助を繰り返し行うことが大切です。
意識の覚醒が良くなり、食事がとれるようになった要因として考えられること
1.慢性硬膜下血腫の縮小
2.食事15分前のギャッジアップ
3.食前のマウスケア
4.嗜好品の利用
5.チームでの統一した関わり
(民医連新聞 第1599号 2015年7月6日)
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