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民医連新聞

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里子・里親 (7)七夕の“流れ星” 文・朝比奈 土平

 面会を重ねて、五月末には乳児院で宿泊訓練をした。夜は八時に電気を消して、朝五時頃にアキラを見るとパッチリ目を開けて笑っていた。
 途中で二度くらい乳児院の先生から「焦らないでくださいね」などと言われながら、少しずつ過ごす時間と空間が長く広くなっていった。
 外出訓練に入浴訓練、オムツ交換訓練にオムツ外しを視野に入れたトイレ訓練等々。裸の付き合いではないけれど、愛着はどんどん強くなって、面会の終わりに乳児院の玄関で先生に抱っこされながら寂しそうに見送る姿が霞むことが多くなった。
 そして七月七日、アキラがはじめて我が家に一泊の宿泊訓練に来ることになった。先生手作りのキルティングのトートバックに紙オムツや着替え、パジャマ等の入ったお泊まりセットを受けとって、昼過ぎにはアキラとふたりで家についた。
 部屋に入って、キョロキョロと辺りを見回したアキラは、平屋の乳児院では見慣れないのか、階段に興味を示した。二階の寝室の方をじっと見上げていた。
 緊張したり心配したりしながらその日を迎えたけれど、アキラ本人は室内を歩くきょうだい猫や保健所出身の一八キロの雑種犬などに物怖じしないで触れていた。好物のスイカを食べていたら、午前の外来診療を終えたお母ちゃんが帰ってきた。
 「かーたん」「帰ってきたの。お帰りって言うよ」「かーり?」そんなたどたどしい会話があった。
 前夜までに「明日来るやん。明後日に乳児院に送って行けるかなぁ?」「こっちが泣いてしまうねぇ」「どっか連れて行ったら誘拐になるしなぁ」などと夫婦で話した気持ちを児童相談所に電話して伝えた。一時間後に「長期の宿泊訓練とします。八月一日付で委託できるよう急ぎます」との返事でほっとした。
 翌朝、アキラが階段を横向きにコロコロコロコロと、転がり落ちてきた。一階に僕が、二階にお母ちゃんがいた。二人ともスローモーションみたいにアキラを見ていた。軽くて柔らかい彼は、びっくりしてすこし泣いたけれど、けがはなかった。
 流れ星みたいに、一歳九カ月の男の子が二階から降ってきて、四〇代夫婦の気ままな暮らしはガラリと変わった。

(民医連新聞 第1599号 2015年7月6日)

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