自治体動かし難病の子に助成 東京・相互歯科 訪問診療部
東京健生会・相互歯科の訪問診療部のがんばりで、小児難病患者に明るいニュースが。患児の住む自治体では、医療介護器具の助成制度に年齢制限があるため困っていました。年齢や住んでいる場所で、受けられる制度に差があるのはおかしい―。スタッフたちは市に働きかけ、助成を認めさせました。(土屋結記者)
相互歯科の訪問診療部は医科歯科連携の一環として、同じ法人の医科の往診に定期的に同行しています。医科の診療が済むと口腔をチェック、ケアが必要な人に歯科往診をすすめます。
難治てんかん脳症のレノックス・ガストー症候群の村野礼樹(れい)くん(五歳)とは、そうして出会いました。薬の副作用で歯が歯肉に埋もれるほど腫れていて、専門的なケアが必要な状態でした。二週間に一度、口腔ケアとマッサージ、口腔周囲のトレーニングを行うことになりました。昨年春のことです。
■住む場所で制度に格差
往診を重ねるうち、歯科衛生士の賀田敦子さんは、礼樹くんのお母さんから困っていることを話してもらえるようになりました。「吸入器が一日に何度も壊れる」「いまだにベビーベッドを使っていて、体位変換がたいへん」。
礼樹くんの住む武蔵村山市には障害児専門の病院があり、難病を抱える子どもたちが多く住んでいます。しかし、吸入器や介護ベッドなどの購入に助成が出るのは「就学年齢以上」という制限が。五歳の礼樹くんは対象外でした。自費だと吸入器は約三万円、介護ベッドは二〇万円弱。なかなか手が出せません。
お母さんはいちど、助成の申請もしています。回答は「却下」。同時期に申請した隣の昭島市に住む礼樹くんのお友だちは助成されました。市境をまたいだだけで制度が使えないのです。
「いのちに関わる器具もある。どうして未就学だと対象外なの?」。賀田さんを中心に、訪問診療部で近隣自治体の制度も調べ、市に交渉しましたが「決まりですから」というばかり。
「一事業所の力では難しいか…」と思っていたところ、礼樹くんに関わっているベテランの訪問看護師から、市の担当保健師に相談しては? とアドバイスが。お母さんに実情を語ってもらうため、保健師、医療者、介護者、行政担当者などを集めて関係者会議も検討。
同時に、訪問診療部の松澤広高歯科医師も、同市の市議会議員に相談してみようと思いつきました。
■市議会で問題とりあげ
経緯をまとめた書面を持って市議会へ。対応してくれた市議会議員は、日本共産党の竹原きよみさん(当時)でした。竹原さんはすぐに福祉課へ。さらに議会質問でもこの年齢制限の問題について取り上げました。
結果、「助成の対象年齢はケースバイケースで運用する」と市に認めさせることができました。制度そのものを変えることはできませんでしたが、礼樹くんの吸入器や介護ベッドなどの購入に助成が出ることになりました。
お母さんは、親身に聞いて動いた歯科スタッフに感謝しています。
「介護ベッドが入って、楽になりました。お姉ちゃんが弟に添い寝するようにもなったんですよ」。それまで、小学生のお姉ちゃんが描く礼樹くんは、ベッドに寝ている姿ばかりでした。介護ベッドになってからは、いっしょに並んでいる絵に変わりました。
■一歩踏み出すのが大事
「これまでは、気になる患者さんがいても、業務に追われて深く関われないことがありました。今回は、周りに背中を押してもらって動けた部分も多かった」と、賀田さんは振り返ります。
「動いてみないと何も始まらないし、行動して見えてくることもあります。なんとか助成を受けられて、患者さんと家族はとても喜びました。それが私たちのやりがいにもつながっています。協力してくれる人もたくさんいて、つながりを感じられたことも嬉しい。上手くいかないこともありますが、そこからも学べる。まずは、勇気を出して一歩踏み出してみる。それが大切でした」。
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今回はうまくいきましたが、他の患者は断られるかもしれません。制度のすすんでいる自治体では、年齢制限はなく、助成の対象になる用具の種類も数多い。「制度自体を変えないと平等な医療福祉の実現はできない」というのが賀田さんの実感です。「患者さんの喜ぶ顔が励み。これからも患者さんに寄り添って、がんばりたい」。
(民医連新聞 第1598号 2015年6月15日)